あの時と同じように会場へ「シーッ」 小平奈緒が誰からも愛される理由とは
「スピードスケート・全日本距離別選手権」(22日、エムウェーブ)
女子500メートルで、2018年平昌五輪同種目金メダリストの小平奈緒(36)=相沢病院=が37秒49をマークし、大会8連覇、通算13度目の優勝を達成した。小平にとって、このレースが現役生活最後の滑り。輝かしい成績を残してリンクを去った小平の素顔を担当記者が振り返る。
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金メダルを獲得した18年平昌五輪。小平の人間性が注目された。2位に終わった李相花の肩を抱き、たたえ合う姿はもちろん。自身の五輪レコードに沸く会場へ、次の選手が集中できるよう口元に指をあて「シーッ」のポーズした姿にスポーツマンシップを感じた人も多かっただろう。
そんな経緯もあり小平自身、金メダリストとして振る舞うことに葛藤し孤独を感じた時期があった。ただこの日の会見で、小平の言葉が印象的だった。
「何かを極めようとすればするほど孤立する場面が出る気がするけれど、私が平昌五輪で一応金メダルを成し遂げた後に、それでは豊かに生きていけないと思った。頂点を極めたことで、アスリートでありながら一人の人間であるということを知ることができた」
あの日と同じ光景だった。自身の最終レース直後、拍手が鳴りやまない会場へ、小平は「シーッ」のポーズを見せた。場内はハッとし、静寂に包まれた。
追い続けてきた金メダルを目前にしても、選手としての最後のレースを終えたばかりでも、一人の人間として配慮を欠かさない。だから小平は愛されるのだろう。これだけ多くの人が、会場へと足を運んだ理由をはっきりと感じた瞬間だった。(デイリースポーツ・國島紗希)