恩師が語る“泣き虫”阿炎の人柄 「絶対に恩をあだで返さない子」
「大相撲九州場所・千秋楽」(27日、福岡国際センター)
平幕阿炎が28年ぶりの優勝決定巴(ともえ)戦を制し、初優勝を飾った。協会ガイドラインを破り、引退危機に陥った阿炎を支えたのが小6から指導した常光弘泰氏(58)。天真らんまんでやんちゃな教え子ながら、「絶対に恩をあだで返さない子」と人柄にほれ込むからこそ励まし続けた。最高の恩返しとなった初優勝の次は「大関」が2人の約束だ。
最大の武器である突き押しは“泣き虫”がゆえに身に付いた。「草加相撲練修会」で阿炎を小6から指導した常光氏は「痛いのがとにかく嫌いで。小学生の頃は、投げられてちょっとすりむいたら、わんわん泣いてました」と笑いながら振り返る。頭で当たるのを嫌がる洸助少年に教えたのが、もろ手突きの立ち合いと突っ張り。「手足が長いし、センスは抜群。身体能力の高さはありました」と素質は光っていた。
稽古は嫌い。阿炎は小学校卒業を機に相撲を辞めたがっていたが、常光氏は「この子は絶対に化けるから」と父親を説得した。結局「仲間が好きだから、相撲をやってる仲間が好きで来ていたような子」は相撲を続け、才能は開花していく。
ただ、メンタル面は勝負師向きだった。常光氏は「異常なまでの負けず嫌い」と評する。稽古は嫌いだが、試合には勝ちたい-。中学時代からは勝利への意欲が勝り、他の道場へ出稽古するようにもなった。さらに一番の強みに挙げたのは「強いヤツとやるのが大好き」という点。流山南高時代、高校横綱との対戦の前に高ぶり、どんどん充血していく阿炎の目が印象的だったという。「緊張しないんですよ。昔から。強いヤツとやると、負けて帰ってきても『楽しかった~』って」。大一番で100%の力を発揮できる素地(そじ)は、すでに備わっていた。
常光氏は現在、東京・両国のもち豚料理店「わとん」で店長を務める。阿炎が新型コロナウイルス対策ガイドライン違反による3場所出場停止処分を受けた期間も、トンカツや唐揚げを差し入れがてら、教え子を励ました。同様に、数多くの友人らが心が折れそうな阿炎をサポートしたという。「絶対に恩をあだで返さない子。だから周りにいっぱい仲間がいるんだと思います」。自然と人が集まる仲間思いの人柄が、自身を助けることになった。
浮き沈みも経験してつかんだ初の賜杯。師匠の番付(東関脇)を超えることを目標としていた阿炎は、西の新関脇になった今年の春場所前には「まだ目標は達成してないから」と控えめにしながらも、常光氏に「大関まで行けるよ」と声をかけられると「…おう」と照れくさそうに答えていたという。恩師は「有言実行の子なんですよ、本当に。『そこに行くんだ』っていう気持ちがそこに行かせるタイプの子」。大仕事を成し遂げ、次なる目標へ。まだまだ阿炎はたくましく、大きくなる。