阿部詩の進化を支えた“詩”とは 「『もう一息、もう一息』と、さらに高めていきたい」
「柔道・世界選手権」(8日、ドーハ)
女子52キロ級は東京五輪女王の阿部詩(22)=パーク24=が圧巻の5試合オール一本勝ちで制し、2年連続4度目の優勝を果たした。6月にも最速でパリ五輪代表に決まる見通しのヒロインを支える言葉とは。担当記者がエピソードを明かした。
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今年3月15日、詩は4年間通った日体大の卒業式で自身が考えたあいさつを読み上げた。文豪の武者小路実篤の詩「もう一息」を引用し、「次の目標はパリ五輪での2連覇。『もう一息、もう一息』と、さらに高めていきたい」と決意を込めた。
この詩は、阿部兄妹が受け身から柔道を始めた兵庫少年こだま会の道場に貼られていた。毎回の練習前、当番制で誰かが朗読したという。旧兵庫警察署内の時代から飾られていたが、1995年1月17日の阪神・淡路大震災で道場が閉鎖。2人の恩師、高田幸博監督(59)が98年に現道場を再建した際、この詩を継承し、印刷したものを道場の壁に掲示した。
道場の“魂”とも言える詩だが、小学生当時は気にも留めなかった。ただ、トップ選手となり、五輪までの重圧、さらに肩のケガやコロナ禍で不安が募る中、心に響く一篇となった。「勝利は大変だ。だがもう一息」。練習の度に心の中で唱え、歯を食いしばった。
高田監督は「まさか、そんなに大事に思っていてくれたとは全然知らなかったですよ」とうれしそうに笑う。兄妹での五輪2連覇という偉業へも“もう一息”。心を支える言葉がある。(デイリースポーツ柔道担当・藤川資野)