坂井隆一郎が世界と戦っていくポイント 昨年のようなスタートと現在の後半のスピード維持【朝原宣治の目】
「陸上・日本選手権」(4日、ヤンマースタジアム長居)
世界選手権(8月、ブダペスト)の代表選考会を兼ねて行われ、男子100メートルは昨年の世界選手権代表の坂井隆一郎(25)=大阪ガス=が10秒11(向かい風0・2メートル)で初優勝した。2年連続4度目の優勝に挑んだサニブラウン・ハキーム(東レ)は10秒59で8位に終わった。同競技の元日本記録保持者で2008年北京五輪男子400メートルリレー銀メダリストの朝原宣治氏(50)が坂井の走りを解説。昨季並みのスタートが切れれば「世界で戦える」と期待した。
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坂井選手は足の痛みが気になって、スタートからあまり出られない状態でしたが、あと一本ということで覚悟を決めて出たのでしょう。決勝ではスタートが決まりました。きちんと加速もできて、今年の改善点だった最後まで走りきることも実践できたレースでした。
ライバルたちの中でも一番力が残っていた感じでした。選手層が厚く、みんな予選から速いので、決勝に力を残しておくことがすごく難しくなっています。普通にいけばサニブラウン選手が抜けているとみていましたが、柳田選手や小池選手も仕上げてきました。男子100メートル全体を考えると、桐生選手、山縣選手らが欠場していた中で、強い選手が育ってきている印象です。
足の痛みは、準決勝でどうするかというところまでいっていました。ただ、調整とか今年の流れから言えば、冬の練習からすごく順調にきていましたし、そういう意味ではちゃんと走れば問題ないと思っていました。本人には「大丈夫」という言葉をかけていました。
直前にアクシデントがありましたが、ここ一番での勝負強さ、集中力はすばらしいものがあり、大事な試合はスタートを外しません。そこが坂井選手の強さでもあります。レース後に涙を流していましたが、それだけプレッシャーがきつかったのでしょう。ライバルが多く、少しのミスが命取りになる状況です。気持ちがものすごく繊細になっているところから、勝ったことで解放感もあったのだと思います。
スタートで手をつく際に、両手をレーンいっぱいに広げているのは、今年は特に低く飛び出そうとしているからです。手を広げれば姿勢は自然と低くならざるを得ません。そこから鋭く出るイメージで、それを実践するための筋力もついてきています。
昨年はスタートから飛び出して、どこまで逃げるかという感じでしたが、昨年ほどスタートは鋭くありません。昨年ぐらいのスタートが切れて、現在のような後半のスピード維持ができたら、世界と戦えるのではないかと期待しています。(2008年北京五輪男子400メートルリレー銀メダリスト、「NOBY T&F CLUB」主宰)