ママレスラー金城梨紗子、世界切符ならず涙 残り1秒で逆転負け「簡単にサヨナラ言えない」即引退は否定、競技愛を再確認
「レスリング・世界選手権代表決定プレーオフ」(17日、味の素ナショナルトレーニングセンター)
非五輪階級の10階級が行われた。女子59キロ級準決勝で、五輪2連覇の金城梨紗子(28)=サントリー=は、南條早映(東新住建)に残り1秒で6-6と追いつかれ、内容差で逆転負け。昨年5月の出産を経て復帰し、日本レスリング界初のママとしての世界切符を目指したが、達成はならなかった。
今後の去就については明言を避けつつ、競技への愛を再確認し「ママアスリートということは抜きにして、レスリングから離れられない。(今回)ダメだったから悔いはないとは踏ん切りがつかない」と即引退は否定した。
五輪女王の強さを発揮したが、残り1秒で夢破れた。金城は第1ピリオドを2-0で折り返し、残り2分を切ったところで6-0とリードを拡大。しかし南條の反撃に押され、残り1分を切ってから6-4と追い上げられると、ラストに起死回生の首投げで投げられてしまい、決勝点を奪われた瞬間、無念のブザーを聞いた。無観客の会場に悲鳴も上がる中、マット上に大の字になって結果を受け止めた。妹の川井友香子(25)=サントリー=もこの日65キロ級で世界切符を逃し、互いにハンカチを渡し合って涙を拭った。
金城は21年東京五輪後に結婚し、昨年5月に第一子を出産。育児をしながら競技復帰し、同12月の全日本選手権では非五輪階級の59キロ級で復活優勝を遂げた。日本では前例のないママとしての五輪挑戦を掲げ、今年6月の明治杯全日本選抜選手権では57キロ級に出場したが、世界女王の桜井つぐみ(育英大)に屈し、自力でのパリ五輪出場の可能性は消滅した。
金城は「(6月の)明治杯は自分の最大限を出し切って負けた結果なので、悔しいというよりよくやったと思ったが、落ち着いて振り返ると、産後に復帰した選手がいなくて、自分が第一人者になるんだという、よくやったという気持ちに甘んじていた。今回は産後とか関係なく、金城で世界一になりたい、娘に金メダルを掛けてあげたい、もう一度姉妹で世界選手権に出たいと(いう思いで)本当に一生懸命やってきた。負けたことは悔しいが、明治杯の時よりはいい自分だった」と胸を張った。
自力での五輪連覇はついえたが「(今は)五輪だけのためにレスリングをやっているわけではない」と強調。今後については明言しなかったものの、「やっぱりレスリングが好き。(これで)引退かと言われたら、そんなに簡単に引き下がれるほど(生半可に)レスリングにハマってない。簡単に引退、サヨナラとは言えない。子供がいて弱くなっていると思われたら、(後進の)産後復帰への壁を高くしてしまっているようで情けない。戦う度に苦しいし、ママでも勝てると証明したい気持ちもあるけど、ママアスリートということを抜きにして、レスリングから離れられない」と、逡巡や葛藤などの率直な思いを明かした。
姉の勇姿をセコンドで見届けた友香子は、涙で声を詰まらせながら「(梨紗子は)すごく強かった。欲を言えば勝ってほしかったが、自分のお姉ちゃんは本当に強い人だなと。負けてしまったが、今までにないこと(ママで世界切符)に挑戦してマットに立っていることもすごいし、世界のトップで戦っている選手とあんなにいい戦いをして、本当にすごい。改めて、人としての強さも見せてもらった」と、3歳上の偉大な長女をたたえた。