サニブラウン、パリは表彰台のチャンス 来年計画通りに進められ、トレーニングも順調にできれば 【朝原宣治の目】
「陸上・世界選手権」(20日、ブダペスト)
男子100メートル決勝でサニブラウン・ハキーム(東レ)が10秒04(無風)で走り、6位に入賞した。昨年の7位を上回る日本勢最高成績で、五輪を含めても、1932年ロサンゼルス五輪の吉岡隆徳の6位に並んだ。準決勝では自己記録に並ぶ9秒97をマークし、来夏のパリ五輪の参加標準記録(10秒00)も突破した。ノア・ライルズ(米国)が9秒83で初優勝した。同種目の元日本記録保持者で、2008年北京五輪男子400メートルリレー銀メダリストの朝原宣治氏(51)が分析した。
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サニブラウン選手は今シーズンの立ち上がりが良くなかったので、ここまでいい走りができたことに驚いています。ただ、記者会見でも強気な発言をしていて、それが言う通りになりました。彼の中で日本選手権の後、調整が進んでいたのだな、ということが分かりました。
テボゴ選手やヒューズ選手ら、後半型の選手がものすごくいいスタートをしました。それに比べて、サニブラウン選手はリアクションタイムも若干遅れて0・177。8人中7番目ですし、スタートで後れを取った感は否めません。
決勝ですから目に見えないような、いろいろな力が働いていると思いますが、準決勝の飛び出しができたら、もう少し良い走りになったのではないでしょうか。ただ、決勝の舞台で完璧を求めるのは難しいことです。
彼は昨年、決勝に残って、そこでいっぱいいっぱいという話をしていましたが、今年は決勝で勝負ができるという自信があった中でのレース。それでも決勝の舞台で思い通りに走らせてもらえませんでした。すごい世界だなとあらためて思いました。
レベルの高い準決勝から、さらに記録を上回り、いい走りをするということは、私には到底考えられません。でもそれを体感し、経験しているのがサニブラウン選手です。現実に彼が感じていることで、メダルを取る選手に比べて足りていないと感じていると思います。
準決勝で余裕がありそうだったセビル選手は4位でした。一方、準決勝で力を出し切ったように見えたヒューズ選手は銅メダルでした。ですから準決勝と決勝は別物です。もう一段高いレベルの戦いを、メダルを取るような選手はできてしまうということです。
パリ五輪で表彰台を狙っていくために何が必要かと問われれば、やはりものすごくレベルの高いレースを体験するのが一番でしょう。サニブラウン選手はさほど、転戦から世界選手権や五輪に向けて調整し、ピーキングするという形ではありません。一方、メダルを取った選手はそういう形できています。
そしてタイムで言えば、トラックとスパイクを考えれば、9秒8台が求められるところにきました。9秒台の後半ではメダルを取れない時代になっています。今回の優勝タイムは9秒83でしたが、来年さらにレベルが上がり、トップが9秒7台だとすると、9秒8台ではなければメダルは厳しいと思います。
決勝に到達し、さらにその上を行くというのは並々ならぬことです。メダルを取っているような選手たちは順調に来て、計画通りに練習が進んでメダルを取っています。サニブラウン選手が来年、計画通りに進められていき、トレーニングも順調にできたらチャンスはあると思います。
今回の男子100メートルを見て感じたことは、ジャマイカ、アメリカという2強という状況ではなくなってきていることです。層がものすごく厚くなってきています。ここにカーリー選手が絶好調で、シンビネ選手がいたりすると、さらに大変なことになります。
準決勝にしても、少し前までは1、2位はちょっと駄目でもタイムで…という感じで、隙があったような気がするのですが、今は隙どころか速い選手が多いのが現状です。いろいろな国の選手が活躍していますし、群雄割拠という印象を受けています。
そして400メートルリレーもすごく楽しみです。7月のロンドンでのダイヤモンドリーグで、日本は37秒80で走りました。ここにサニブラウン選手が入ってきます。柳田選手は調子がよさそうですし、予選落ちした坂井選手も日にちがありますから調整していけます。さらに小池選手は今回リレーメンバーで来ています。調整はできているはずですし、リレーはメダル圏内にいると思っています。(2008年北京五輪男子400メートルリレー銀メダリスト、「NOBY T&F CLUB」主宰)