パリ五輪でメダル圏内の男子400mリレー 余裕を持ったバトンパスへ走力を高めること【朝原宣治の目】
「陸上・世界選手権」(26日、ブダペスト)
男子400メートルリレー決勝で坂井隆一郎、柳田大輝、小池祐貴、サニブラウン・ハキームで臨んだ日本は37秒83の5位で、2大会ぶりのメダル獲得はならなかった。米国が37秒38で優勝した。イタリアが37秒62で続き、37秒76のジャマイカが3位。北京五輪男子400メートルリレー銀メダリストで、100メートルの元日本記録保持者の朝原宣治氏(51)が分析した。
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まったく歯が立たなかったわけではありませんし、結果についてはちょっと残念でした。もし、予選のタイム(37秒71)でいけていれば3位でした。珍しく予選よりもタイムを落としましたし、少しもったいなかったです。
選手それぞれの走りはある程度、良かったと思います。ただ、小池選手からサニブラウン選手のバトンパスのところでちょっと減速したので、あそこは大きかったかな、と思います。
あの場面は、おそらく攻めていって、もしかしたら小池選手が遠くて届かないかもしれない、という感じでした。サニブラウン選手がテイクオーバーゾーンで、出口が近づいてきていたので、たぶん心配になって減速し、いったんスピードを緩めた形だと思います。本当にギリギリだったと思います。一度減速しているので、いくらサニブラウン選手が調子がいいといっても、世界の強豪がアンカーに集まっていたので、順位を上げるのは難しかったです。
バトンパスは1走から2走は良かったのですが、2走から3走はもう少し攻められたかな、という感じはしました。坂井選手も本調子ではなかったこともあり、本来は後半にもう少し伸びると思うのですが、今回は後半のスピード減速を踏まえたバトンパスをしていたと思います。全体的にちょっとずつ、そういうところがタイムに影響してきているのかな、と思います。
メダルは完璧なバトンパス、精度を求めないと取れない状況にあります。ですが、本番でいつも完璧に渡せるかいうと、そうとも限りません。余裕を持ったバトンパスをしようと思うと、走力を高めるしかありません。
アメリカが優勝しましたが、あのようなバトンパスでも37秒38で走ります。走力があるところは、どのようなバトンパスでも結果を出してきます。日本はスムーズにバトンが渡っていたらメダルだったと思いますが、いつも完璧にできるかというとそうもいきません。そうそう完璧にいかないと考えると、もう少し走力があった方がいいに越したことはありません。
日本のメンバーはだいぶ変わりましたし、新しいメンバーであまり試合数をこなしていない中、これだけの完成度は大変なことです。7月にロンドンで行われたダイヤモンドリーグでは37秒80を出しました。そこまでバトンパスの練習をしていなくて、メンバーもなかなかそろわない中、きっちり渡してくるんだなと思っていました。
メンバーが新しくなるときなど、信頼関係を持って走るには、それなりに時間がかかります。そういう意味で、今年は昨年のようにいきなり替わる感じではありませんでした。ロンドンで一度、本番さながらのバトンパスをして臨み、そのときのメンバーで替わったのはサニブラウン選手だけです。ある程度チームという意味では、できあがりつつある印象です。
パリ五輪でメダルを狙える状況にはあります。メダル圏内にはいます。ただ、外国勢もかなり力をつけています。イタリアとか、南アフリカも強くなってきています。その辺りとの3位争いというところでしょう。東京の時は金メダルを取ると言っていましたが、今はちょっと難しいです。
今大会、日本チーム全体としては底上げができてきたのかな、という感じがします。泉谷選手や三浦選手らの入賞は印象的でしたし、400メートルも佐藤拳太郎選手、佐藤風雅選手らが力を出しました。男子1600メートルリレーはちょっと残念でしたが、あと1人いれば決勝は必ずいける感じです。
試合で自己ベストを出すことはすごく難しいですが、シーズンベストや自己ベストを出す選手が増えてきました。そういう意味でも、いい傾向だと思っています。(2008年北京五輪男子400メートルリレー銀メダリスト、「NOBY T&F CLUB」主宰)