“慶応レスラー”尾崎 涙の初五輪切符 残り9秒89から大逆転!「応援されて愛されて…幸せ」一度五輪消滅も階級変更でつかんだ!
「レスリング・パリ五輪女子68キロ級代表決定プレーオフ」(27日、味の素ナショナルトレーニングセンター)
女子6階級で唯一、パリ五輪代表が決まっていなかった68キロ級のプレーオフが行われた。世界選手権65キロ級女王の尾崎野乃香(20)=慶大=が、世界選手権5位の石井亜海(育英大)を5-4で撃破。残り9秒89から大逆転で、初の夢舞台切符を勝ち取った。
勝てば五輪、負ければ4年後。人生をかけた大一番を尾崎が制した。試合直後は「夢の1歩に近づいた感じがしない」と実感が湧かなかったが、母の利佳さんを含めた応援団20人に囲まれて拍手が送られると、自然と涙があふれた。
「たくさんの人に応援されて愛されて…。ここまでくることができたのは自分の力じゃない。これ以上にないくらいの感謝。幸せ」
崖っぷちの場面で“伝家の宝刀”がさく裂した。第1ピリオド(P)を3-0でリードするも、第2P残り9秒89で3-4と巻き返された。「絶望的。これで終わってしまうのかな」。最悪のシナリオが頭をよぎった時、応援団から声が響いた。
「あと10秒ある!一つやることだけを頭に置いておけ」
短く息を吐いて集中力を高めると、繰り出したのは小学生から武器にしていたスピードのある片足タックル。わずかにフェイントを入れてから右足に飛び込み、素早く背後に回り込んだ。テイクダウンを奪い、終了間際に大逆転。両拳を強く握りしめて絶叫し、何度も跳びはねながら喜びを爆発させた。
元々は62キロ級。22年の国内代表争いで敗れ、23年世界選手権で元木咲良(育英大)が2位に入りパリ五輪への道が消滅した。「これで私の五輪は終わったのか」(尾崎)。自身は同大会に非五輪種目の65キロ級で出場しており、涙を流しながらウイニングランを行った。
ただその後の68キロ級で石井が代表決定を逃し、チャンスが回ってきた。階級を上げて五輪再挑戦を決意し、同年12月の全日本選手権に出場。初戦で石井を撃破して優勝し、この日のプレーオフに望みをつないだ。「前向きにやって来てよかった」と、もがき苦しんだ日々に思いをはせながら実感を込めた。
現在大学3年の20歳。「今まで私と戦ってくれた選手に感謝。日本代表として全ての気持ちを背負って出たい。金メダルを取れるように頑張ります」。一度は断たれた夢舞台を諦めずに追い続けた“慶応レスラー”が、パリの舞台で頂点を目指す。
◆尾崎野乃香(おざき・ののか)2003年3月23日、東京都足立区出身。7歳からレスリングを始めた。高校進学と同時に18年からJOCエリートアカデミーに入校し、卒業後は慶大に進学。164センチ。