尊富士の悲劇 勝てば新入幕V大一番で負傷→救急搬送 八角理事長「軽傷を祈るしかない」 異例の不戦敗で優勝の可能性も
「大相撲春場所・14日目」(23日、エディオンアリーナ大阪)
単独トップの1敗で新入幕優勝に王手をかけていた尊富士が、痛恨のアクシデントに見舞われた。平幕朝乃山に寄り切られて2敗に後退した際、右足を負傷。救急車で搬送され、休場のピンチに陥った。平幕大の里は3敗をキープ。豊昇龍は琴ノ若との大関対決に敗れて4敗となり、優勝戦線から脱落した。優勝の可能性は尊富士と大の里に絞られ、尊富士が豪ノ山と対戦する千秋楽を休場した場合、大の里が豊昇龍に敗れれば尊富士の優勝、大の里が勝てば3敗で並んだ優勝決定戦を不戦勝で制し、大の里が優勝する。
勝てば110年ぶりの新入幕優勝という大一番で、尊富士を悪夢が襲った。鋭い出足を朝乃山に得意の右四つで止められると、胸を合わせて寄り切られる完敗。後ろ向きで土俵下に飛び降りた直後、異変が起こった。
こわばった表情で土俵に手をつくと、慎重に土俵に上がって礼。右足をひきずって土俵から下りた。付け人の肩を借りて引き揚げることも途中で諦め、車いすに乗せられて医務室へ。応急措置を施されると、顔面蒼白(そうはく)、右足を装具で固定されて救急車で搬送された。
2差で追っていた2人がそろって敗れればそれでも優勝だったが、直後の取組で大の里は3敗死守。この時点で、優勝決定は千秋楽に持ち越された。
1差の単独トップで迎える千秋楽を尊富士が休場した場合、異例の事態が発生する。不戦敗となっても、大の里も敗れれば初優勝。14日目までに優勝を決めていなかった力士が千秋楽を不戦敗で優勝すれば、史上初となる。大の里が勝てば3敗同士の優勝決定戦となり、大の里が不戦勝で優勝。優勝決定戦の不戦勝も、幕内では初めてとなる。
今場所の主役だった超新星に降りかかった悲劇。八角理事長(元横綱北勝海)は「負けたことよりケガがね。軽傷を祈るしかない。無理したら元も子もない。相撲人生は長いから」と気遣い、幕内後半戦の浅香山審判長(元大関魁皇)も「明日にならなきゃわからないし、何とも言えないところ。とにかく尊富士のことが心配だ」と顔を曇らせた。
“荒れる春場所”は、歴史的偉業達成の寸前から急転直下。誰も想像できないクライマックスを迎えた。