尊富士110年ぶり新入幕V!史上最速10場所目 右足首靱帯損傷も出場直訴「一生後悔する」
「大相撲春場所・千秋楽」(24日、エディオンアリーナ大阪)
新入幕の尊富士が歴史的快挙を成し遂げた。豪ノ山を押し倒して、13勝2敗とし、1914年夏場所の両国以来110年ぶりとなる新入幕優勝を飾った。初土俵から所要10場所目の優勝は史上最速。14日目に右足首を痛めた休場のピンチを乗り越え、記録ずくめの賜杯を手にした。00年九州場所の琴光喜以来24年ぶりとなる三賞総なめも果たした。また、日本相撲協会によると、大銀杏(おおいちょう)が結えない力士の優勝は初めて。平幕大の里は大関豊昇龍に敗れて11勝4敗となったものの、敢闘賞、技能賞を獲得した。
全てを出し尽くした。偉業達成の勝利を決めた瞬間、尊富士は土俵上で何とも言えない笑みを浮かべた。絶体絶命のピンチを乗り越えての新入幕V。手負いの超新星が、110年ぶりに歴史を動かした。
2敗目を喫した14日目の朝乃山戦で右足首を負傷。靱帯(じんたい)の損傷だった。「昨日は歩けなくてダメだと思った」。休場が頭をよぎる中、気持ちを奮い立たせてくれたのは、尊敬してやまない兄弟子の照ノ富士。夜遅く病院から宿舎に帰ると「おまえならできる」と背中を押された。
「横綱の背中を見て育った。横綱もケガで苦労していたし、このケガで土俵に上がらなかったら男じゃないなと思った」。学生時代は両膝などのケガに苦しんだ。またしても…という感情は「それは思いました」と芽生えたが「ケガで諦めたことは一度もないので」と覚悟を決めた。
眠れないほどの痛みと戦いながら、師匠の伊勢ケ浜親方(元横綱旭富士)に出場を直訴。「これ(休場)で終わったら一生後悔する」と痛み止めの注射を打ち、右足首をテーピングで固めて土俵に上がった。
腹をくくれば強かった。右で張って左を差し、右上手も引いてこん身の寄り。一度は豪ノ山に残されるも、左ですくって再び攻め立て、最後は力強く押し倒した。直後に表情を緩めた瞬間は「覚えていない。何が何だかわからないっす」と夢見心地だった。
初場所後、照ノ富士の優勝パレードに同乗。「いい景色を見させてもらった」と、今度は自分の力で同じ景色を見ることが目標となった。それからわずか2カ月。「次の場所で現実になるとは思っていなかった」と自身も驚くスピードで、一気に夢をかなえた。
取組後の支度部屋では精根尽き果てた様子。声は震え、目も潤んでいた。「気力だけでとりました。『もう一回やれ』って言われても無理ですね」と素直な気持ちが口をついた。110年ぶり、歴代最速…記録ずくめの優勝にも「記録じゃなく記憶に残るような力士になりたい」と望んだ。窮地に追い込まれても諦めず、痛みに耐えてつかんだ初賜杯。劇的な戴冠は間違いなく人々の記憶に刻まれるものとなった。