五輪直前に異例の大会派遣、シード順で世界王者回避 柔道男子の鈴木桂治監督「逃げるわけではない」「金メダルに近づく戦略」

 柔道日本男子の鈴木桂治監督(44)が14日、オンラインで取材に応じた。パリ五輪(7月26日開幕)が約1カ月後と直前に迫る中、男子100キロ超級代表の斉藤立(22)=JESグループ=をパンアメリカ・オープン(21~2日、ペルー・リマ)に派遣する異例の措置について、シード順を上げて五輪本番での組み合わせを優位にすることが目的と説明。本人、担当コーチ、所属との会議を経て同じ考えに至ったといい、「金メダルを少しでも近づけるための戦略」と述べた。

 代表内定選手の五輪約1カ月前の海外大会派遣は極めて異例の措置となる。斉藤は現在、五輪ポイントランキングで7位につけているが、このまま開幕すれば23年世界王者のロシア選手、タソエフと準々決勝で当たり、準決勝で五輪2連覇王者のテディ・リネール(フランス)と連続で当たる過酷な組み合わせとなる。

 今月上旬までは斉藤がシード順で6位につけていたものの、9日にマドリードで行われた欧州オープンで優勝したリネールが僅差で浮上。斉藤が今大会に出場すれば、リネールを抜いて6位に再浮上し、過去全勝と相性のいい世界ランク3位のラキモフ(アゼルバイジャン)と準々決勝で当たることになるだけに、鈴木監督は「準々決勝でタソエフ、準決勝でリネールと当たるよりも、我々も(五輪ランク)6位で(準々決勝で)ラキモフと当たるべきではないかという考えに至った」と説明した。

 ただ、懸念要素もある。同大会には斉藤の他、世界ランク圏外のペルー選手2人がエントリーし、シード順を争うリネールもエントリーするという異様な状況となっているが、試合結果にかかわらずリネールにポイント加算の可能性はないだけに、斉藤の取りやめを狙った“けん制”と見られる。大会が成立した時点で斉藤の6位浮上が決まるが、斉藤以外の3人がキャンセルし1試合も実施されなければ大会は成立せず、徒労に終わる可能性もゼロではない。「リネール選手がペルー(の大会)に出る意味は、立と試合することだけ。直前で取りやめる可能性があり、さまざまな可能性を想定して現地に向かう」とシミュレーションを明かした。

 また、192センチ、160キロ超の巨体で腰痛持ちの斉藤にとって、片道30時間のフライトもネックとなるが、本人や所属も交えた話し合いで出陣を選んだといい、「それ(リスク)を踏まえても試合を経ておく方が、五輪に向けて少しでも金メダルに近づく可能性が高いと考えた」と明かした。

 五輪直前に、シード順を目的に海外派遣をするという判断について、「(どんな組み合わせであれ)強い相手を倒してこそ(の金メダル)だという意見もあると思うが、やはり当たらなくていい選手には当たらなくていいのが五輪だと思う。(結果として)勝つ選手が強いわけで(敗退する)リスクを排除するのが我々の仕事。選手に無駄な負担を掛けることはないと思っている。試合当日に金メダルをもらった選手が金メダリストですから、その可能性を少しでも100%に近づける準備をする上で(世界王者の)タソエフ選手、リネール選手とやる順番より、違う選手とやってリネール選手とやる順番の方がリスクが少ないという判断。強い選手から逃げているわけではない。戦略の1つとして、より金メダルに近づくという考え」と、代表監督として考え方を述べた。

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