競泳女子代表・松本信歩 “東大一家”で育った超秀才スイマー パリ五輪で掲げる目標は決勝 勉強も水泳も「逆算」が大事
7月26日に開幕するパリ五輪まで1カ月。1900年、1924年に続き、100年ぶりにパリで開催されるスポーツの祭典に挑むアスリートの思いや、日本勢の戦いぶりを予想する。競泳女子代表で、200メートル個人メドレーに出場する松本信歩(しほ、22)=東京ドーム=は両親が東大卒で、弟も東大に在籍し、自身は早大生だ。難関の資格取得にも打ち込む“秀才スイマー”が、初の夢舞台で決勝進出を目指す。
文武両道という言葉では形容が足りないほどの秀才スイマーがいる。女子200メートル個人メドレーでパリ五輪代表に入った松本だ。
両親は東大卒で、弟も同大学の水泳部に所属。自身は競泳に打ち込める環境を優先して、偏差値75を超える超進学校の東京学芸大学付属高から早大に進んだ。中学から競泳で全国大会優勝などの好成績を残していたが、推薦などは使用せずに共通テストを用いた受験方式で合格。土、日の2部練習を含む週10回のハードな練習をこなしながら、スポーツビジネスを学び、2年時には成績優秀者として学部で2人しかもらえない大隈奨学金を大学から支給された。
“受験”の勉強が一区切りついた大学生からは「スポーツ以外の勉強もしたい」と“資格取得”に打ち込む。毎年二つの試験を受け、1年時は英語能力試験「TOEIC」で、通常会話は完全に理解できて、応答も早いレベルとされる825点の獲得に加えて簿記2級、2年時はスペイン語検定5級と宅地建物取引士(宅建)に合格した。
3年時は行政書士検定に挑戦。3月に行われたパリ五輪代表選考会に向けて競泳に比重を置いていたこともあり、12点足らずに合格はできなかったが、再受験を予定している。
“東大一家”で、両親からは勉強の大切さを教えられて育ってきた。そもそも、一般的に人が思う「勉強が嫌」という感情を抱くことがなく、家で机に向かうことは当たり前。資格を取るための勉強は、約2~3時間の電車移動を活用している。松本は「インドアで、オフの日は他にすることがないので…」と人並み外れた勉強量を苦笑いするが「勉強をしていると、水泳のことを考えない。分けてできて、すごくいい」と超ハイレベルな文武両道が、うまく気持ちの切り替えにつながっているという。
「資格を取る目標を決めて、ちゃんと取る。その過程を楽しんできた。どこまでに、どれくらいのことをやらないと本番でダメ。逆算してやるのは勉強も水泳も同じ」
パリ五輪代表選考会の200メートル個人メドレーでは、松本の頭脳プレーがさく裂した。競泳は準決勝を上位で通過した選手から、決勝では中央に近いレーンで泳ぐ。ゴールの瞬間まで混戦になると予想していた松本は、最終泳法のクロールの呼吸の際に、ライバルである東京五輪200メートル、400メートル金メダリストの大橋悠依(イトマン東進)、昨年の福岡世界選手権代表の成田実生(金町SC)が見えるコースで泳ぎたかった。
大橋が1位、成田は3位で準決勝を通過した中で、松本は5位。プラン通り、右隣に成田、その奥には大橋と、2人が見える位置取りに成功した。決勝は1秒差以内の大接戦。最後はライバルを視界に捉えた松本が、残り15メートルで力を振り絞り、2位で五輪切符をつかんだ。
パリ五輪で掲げる目標は、上位8人が進む決勝。2日までは欧州グランプリ3連戦に出場し、200メートル個人メドレーでコンスタントに2分10秒台を記録する安定した泳ぎを見せた。今後は7月にフランス・アミアンで合宿を敢行し、最終の仕上げに入る。頭脳と競技力を併せ持つ“超”秀才スイマーが、初の夢舞台に挑む。
◆松本信歩(まつもと・しほ)2002年4月3日、東京都出身。5歳から競技を始める。小学生で全国大会初出場。東学大竹早中、東学大付高を経て早大スポーツ科学部に進学した。中学3年時は全国中学校大会200メートル個人メドレーで優勝。23年の世界ユニバーシティー大会(成都=中国)では、リレー3種目で銅メダルを獲得した。好きなアーティストはSMAPと安室奈美恵。趣味はピアノ。東京ドーム所属。168センチ。