荒井亡き母に捧げる2位 リオ五輪当確

 「陸上・日本選手権・50キロ競歩」(17日、石川県輪島市・日本陸連公認コース)

 リオデジャネイロ五輪代表選考会を兼ねて行われ、昨夏の北京世界選手権4位の荒井広宙(ひろおき、27)=自衛隊=が陸連の派遣設定記録(3時間45分2秒)を上回る3時間44分47秒で2位。昨年11月24日に亡くなった母の繁美さん(享年63)に捧(ささ)げる初の五輪出場を確実にした。北京世界選手権で銅メダルを獲得し、すでに代表内定の谷井孝行(33)が2年ぶり3回目の優勝。4大会連続五輪出場を目指した山崎勇喜(32)=自衛隊=は32キロ地点で途中棄権した。

 普段通りのニコニコ顔でゴールした荒井が父・康行さん(67)の姿を見つけた途端、大粒の涙をこぼし始めた。康行さんの手には遺影が握られ、母の繁美さんが穏やかな笑みをたたえていた。

 「ロンドン五輪代表を逃した4年前のトラウマ(心的外傷)があり、今までで一番プレッシャーのかかる試合。これで五輪出場が濃厚になった。かあちゃんも天国で喜んでくれればいいな」。暴風警報が出てレース中の最大瞬間風速は24メートル以上。それでも歩き続けた荒井は再び笑顔に戻った。

 父母の助けがあったから競歩を続けてこられた。福井工大に通った4年間は月14万円、就職先が見つからなかったその後の2年間は月9万円の仕送りを受けた。両親が長野県小布施町にある果樹園で額に汗して稼いだ貴重なお金だった。

 それから2年後の14年6月、繁美さんの体調が急変する。診断は卵巣がん。それでも母は息子が五輪で活躍する姿を励みに全摘手術を受け、抗がん剤治療を続けた。

 昨年8月の北京世界選手権は現地観戦を諦めたが、自宅でテレビ観戦。4位の結果に「感動しました。ウチの息子が世界で4番に入るなんて夢にも思いませんでした」。福井工大在学中から指導する内田隆幸さん(70)は、今でも繁美さんの喜ぶ声が忘れられないという。

 競歩のリオ五輪代表が発表される18日は、繁美さんの誕生日。「ここからが始まり。かあちゃんも見てくれる」。今度こそ金色に光るきれいなメダルを母に届ける。

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