【スポーツ】渡辺彩香の決断に拍手

 女子ゴルフの渡辺彩香(22)=ユピテル=が男子ゴルフの米ツアーで3勝、国内ツアーで10勝を挙げた“マルちゃん”こと丸山茂樹(46)=セガサミーホールディングス=に“弟子入り”していたという話を聞いて、私はこのコンビ結成に大きな可能性を感じた。

 渡辺は今季、顕著な成長の跡を記した。もともと172センチの長身と長い手足を生かしたロングドライブが売り物で、ドライバーの平均飛距離は270ヤード近い。他の選手よりもパー5で2オンできるホールが多いため、イーグル数は3位タイの6個。平均バーディー数は5位の3・5215だった。

 戦績は、序盤戦のヤマハレディース葛城で今季初優勝すると、終盤戦の樋口久子Pontaレディースで2勝目。目標としていた年間複数優勝を達成した。通算獲得賞金額は初めて1億円を超える1億86万6583円となり、賞金ランク6位に躍進した。

 だが、近い将来の日の丸エースは満足していなかった。「1億円を越えたことには達成感があるし、充実感も大きい。でも、まだ上に5人いると考えると満足はできない。今年はイ・ボミさんとか外国選手が活躍して、私も含めて日本選手は悔しい思いをしている。来年は何とかしたいなと思っています」と強い向上心を口にした。

 となると、次は方法論。イ・ボミ、テレサ・ルー、申ジエ、アン・ソンジュ、李知姫という上位にいる外国選手に勝つためには、何が必要か。今季のデータを見ると、それが明らかになる。

 渡辺は平均ストロークとパーオン率は8位だが、パーセーブ率は13位。リカバリー率に至っては極端に悪く、59・2401で50位に沈んだ。これが何を示しているかというと、グリーン周りのアプローチを含めた100ヤード以内のショットに課題があることだ。

 今回の丸山への“弟子入り志願”はこのデータが示すものが背中を押したのではないかと思う。実際、9月ごろに丸山に教えを受けたい意志を伝え、快諾を得ているが、ちょうど今季初優勝を果たしてから、年間2勝目が遠い時期だった。脱皮へのきっかけをつかみたい-。その気持ちが“丸山塾”の門をたたかせたのだろう。

 渡辺は丸山に“弟子入り”しようと思った理由をこう話している。「9月に(教えてもらう)機会をいただいて、グリーン周りのアプローチや100ヤード以内の、自分にないショットを教えていただきました。また、今年はアイアンでラインを出すショットがよくなかった。イ・ボミさんたちに勝つには、抑えて打ってピンを狙っていくショットも大事になってくるので、丸山さんから吸収したいです」。

 ゴルフのリオ五輪日本代表ヘッドコーチを務める丸山にとっても、渡辺のような大器の“弟子入り志願”は大歓迎。「彩香ちゃんから志願してきた。これまで教えてきたのは100ヤード以内とグリーン周り。(丸山の100ヤード以内は天下一品なので)餅は餅屋ということで、志願してきたのでしょう。僕が教えてからアプローチの形は180度違っていると思う」といきさつを話した。

 丸山によると、渡辺の伸びしろは相当なもの。「まだ(コースの)攻め方が分かっていないというか、分からないのだと思う。攻め方の方程式が解ければ、彼女のゴルフならもっと上にいける。体も強いし、男子のやることも多少できると思う。(米ツアーで活躍している)ミッシェル・ウィーよりパワーは上。ウィーくらいにはなれるね」と絶賛した。

 今回のコンビは絶妙だと思う。飛ばしの力はあるが、小技が苦手な渡辺が、男子の中では飛ばし屋ではなく、小技のうまさで米ツアーでも勝利を挙げた丸山の指導を受ける。これまでに女子プロが男子プロのコーチを受けることは日常的にあったが、丸山のようなトッププロに本格的に“弟子入り”するのはあまりない。

 渡辺は来春1月には丸山の拠点・米ロサンゼルスで集中して指導を受ける予定。マルちゃんの教えで現在の女子ナンバーワン飛ばし屋がアプローチに磨きをかければ鬼に金棒。まだ結果は出ていないが、こういう大胆な試みはどんどんやっていいと思う。来季は丸山、渡辺コンビにずっと注目していきたいと思う。(デイリースポーツ・松本一之)

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