松山英樹 メジャー戴冠は秒読み

 全英オープンが始まったのは156年前。以降、ゴルフ人気の世界的拡大に伴って、いわゆる男子メジャーは毎年4度、開催されている。そしていまだ、日本人選手の勝利がないのはご存じの通り。

 例えばそれぞれが日本人最強を競い合ったAON(青木功、尾崎将司、中嶋常幸)にしても、4大メジャー合わせて130回近く挑戦しながら、一度も優勝できていない。

 この分厚い扉をまさに今、松山英樹(24)=LEXUS=という若武者がこじ開けようとしている。それも早ければ今年だ、と、マスターズを取材して強く感じている。

 多分に願望も含まれているが、それは省く。メジャーで勝つであろう、いくつかの理由を挙げる。

 まずその成長速度と、内容だ。松山は昨年2月のフェニックス・オープンで2位に入り、マスターズで5位という好成績を残した。

 そして今年、そのフェニックス・オープンで米ツアー2勝目。マスターズでは日本人初となる2年連続トップ10入り(7位)を果たした。

 東北福祉大ゴルフ部の阿部晴彦監督(53)は「アイツは1年間をどうする、5年間、10年間をどう過ごす、という期間期間のプランを綿密に立てて、それを遂行するタイプ」と話す。

 その“年間プラン”に従って、昨年優勝を逃したフェニックス・オープンでしっかりと勝ちきった。

 さらにマスターズでは5位から7位と順位だけ見れば下がっているが、内容は明らかに今年の方が優勝に近かった。

 昨年は天候も穏やかで、さらにグリーンは非常に柔らかく、速度も出ていなかった。ジョーダン・スピースの優勝スコアは大会史上最少タイの通算18アンダー。こうした伸ばし合いで、松山はその“遅さ”に苦しんだ。ようやくパットのタッチが合った最終日こそ66で5位に上がったが、優勝争いはしていない。

 一方、今年はオーガスタ名物の高速グリーンに回帰。さらに3日目まで時折10メートルを超える、西寄りの風が吹いた。この方向の風は、2番を除くパー5(8、13、15番)でいずれもアゲンストとなり、大幅なスコアアップを期待できない。

 そのコンディションで、松山は初日1アンダー、2、3日目がイーブンパーと常に優勝を意識できる位置で踏ん張り、日本人で初めて、3位で最終日を迎えたのだ。

 最終日に伸ばせず、7位に終わったが、優勝スコアは前年より13打も悪い「5」だ。松山は悔しさを隠さなかったが一方、誰もが苦しむ中で「この位置にいられたのはよかった」と、“去年とは違う自分”をしっかり感じ取っていた。

 この成長を鋭く見抜いていた人物が、オーガスタにいた。アーノルド・パーマー、ジャック・ニクラウスと『ビッグ3』と称される伝説的ゴルファー、ゲイリー・プレーヤー(80)だ。

 メジャー通算9勝のプレーヤーはこれまでの松山について「パットがもう少しよければ」という評価だった。しかし今年は「こちらで戦うのに必要なパワーも、パットの技術も備わった」と、勝てるレベルに来ていることを請け合った。

 ただし、レベルにあることと、勝てることは別だ。パーマーは、自身の、50年以上前の経験を引き合いに出した。「(南ア出身の)僕がこの国で勝ちそうになると、アドレスに入っている時に分厚い電話帳が飛んできたり、カップの氷が投げられたり、面と向かって『ミスしろ!』と言われたことまであった」という。

 続けて「今はそこまではないが、喜ばない人もいる。それを上回る、勝ちたいという強い気持ち、パッションが必要。そして(受け入れられるための)紳士的振る舞い。それがヒデキの道を開くはずだ」と話した。

 マスターズの公式会見では「英語がなかなか頭に入ってこなくて」という悩みも口にした。裏返せば、もっと受け入れられたい、という思いが松山にはある。この発言と、今回の活躍と併せてこれまで以上に、松山の名前は米国でポピュラーになる土壌はできあがりつつある。

 今年のメジャーはまだ3試合残っている。6月の全米オープンは9年ぶりのオークモントCC。前回優勝スコアは5オーバーという超難コースだが、今回のマスターズで厳しいコンディションでも戦えることは証明した。

 7月中旬にロイヤルトゥルーンで行われる全英オープン。このコースでは82年に倉本昌弘が4位と大健闘。さらに同月下旬の全米プロは、80年(この時は全米オープン)、ニクラウスVS青木の死闘が演じられたバルタスロールGCと、いずれも日本人が活躍した歴史を持つ。

 書いていて、思う。本当に、松山はいつ勝ってもおかしくない。(西下 純)

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