【綾子の視線】4日間バック9をノーボギー「ゴルフ史上に残りますよ」
「女子ゴルフ・AIG全英女子オープン・最終日」(4日、ウォバーンGC=パー72)
首位スタートの渋野日向子(20)=RSK山陽放送=が初の海外戦でメジャーを制覇した。前半は苦戦も、後半で5バーディーの猛チャージをかけて再逆転し、優勝賞金67万5000ドル(約7200万円)を獲得した。日本勢のメジャー勝利は1977年全米女子プロ選手権を制した樋口久子以来で42年ぶり2人目。
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本当にうれしいですね。日本中のゴルフファンが万歳したんじゃないでしょうか。18番のバーディーパットが入った瞬間、私は思わず声を上げてしまいました。もう言葉にはなりませんでしたね。
こんなに眠れない夜を過ごしたのも初めて。この4日間、睡眠時間は毎日2時間ぐらいでした。それぐらい初日から期待感があったのですが、実際にその通りに優勝してくれたんですから。渋野さんより私の方が興奮していたかもしれません。
渋野さんを特に褒めたい点が二点あります。まずは4日間、バック9をノーボギーで回ったこと。これはゴルフ史上に残りますよ。フロント9でボギーが先行している状況で、バック9で立て直していけたのはたいしたものです。
あと一つ、12番のパー4で1オンを狙っていったこと。あの時点でトップのサラス選手とは2打差ありました。あそこはドライバーを持たなければいけないし、私なら持ちます。刻んでいってもバーディーは取れるでしょうが、「ここでイーグルを取って並ぶ」という気持ちでいってほしいと期待して見ていました。渋野さんはためらうことなくドライバーを手にし、思い切って攻めていきましたよね。もし失敗していたら周囲から「無謀だ」などと言われたでしょうが、それでも私は狙っていってほしかった。その積極性を最終日、あの場面でやってのけたのは立派です。
日本勢としては42年ぶりのメジャー制覇ですか。言葉で言い表すのは難しいのですが、樋口さんが約半世紀、ずっと守っていることが“滑稽”に思えてきた時期でもありました。1998年にプロ入り直後の朴セリ選手が全米女子オープンで勝って、それから20年、初優勝がメジャーという韓国選手が次々と出てくるのを見ているとね…。でも、ようやく日本にも光が見えてきました。黄金世代をはじめ、日本の若い選手はみんな「彼女のゴルフがなぜメジャーで勝てるのか」という視線で見てきますし、彼女のゴルフに惹(ひ)かれてプロゴルファーを目指す人もいるでしょう。いい風を運んできてくれました。
それにしても、あのキャラクターにはビックリします。樋口さんも「新人類」と言われていたようですが、テレビカメラに向かって物を食べるなんて、私が師匠だったら「やめなさい」と言うかも。でもやっぱり「勝ったから許す」といったところかな。
笑顔でのラウンドが印象的でしたが、実は口角を上げると集中しやすくなるんですよ。私も若手には「への字口でいいゴルフはできないよ。口角を上げてごらん。首から下がスムーズに動くから」って教えているんです。渋野さんは自然体で笑えているところがいい。本当にいい顔をしています、プレーに入って笑っていない時も含めてね。
ただ、メジャーを勝ったことを振り返っている暇はありません。クラブを置いたときに初めて「私、メジャーに勝ったんだな」と思い返せばいい。今日からまた一プロゴルファー、渋野日向子としてやっていかないと周りにつぶされてしまいます。セルフコントロールをしっかりして次の試合に向かっていってもらいたい。もっとすごいことをやってのけるでは、という期待感がありますから。これからを楽しみにしています。
これで、東京五輪の代表争いも面白くなりました。ただ世界ランク最上位の畑岡さんは予選落ちが続いて、少し悩んでいるように見受けられます。アスリートにとって悩んでいいことなんて何もない。悩んでいるということは、進歩がないということ。悩むのではなく、考えないといけない。考えるということは、試すということ。だからいろいろな方法が見えてくるし、前を向いて練習することができる。「悩むな。考えろ」ですよ。