国内2戦目Vの新星・笹生優花 飛距離はツアー随一 2020年の女子ゴルフを振り返る
女子ゴルフの2020-21年シーズンの開幕第2戦は、昨年8月14日から16日まで行われたNEC軽井沢72(長野・軽井沢72C北C=パー72)だった。その最終日、日本女子ゴルフ界に新しい風が吹いた。それも強烈な風が-。
3位からスタートした19歳の笹生優花(ICTSI)が1イーグル、7バーディー、ボギーなしの9アンダー63をマーク、通算16アンダーで逆転の初優勝をさらった。19年プロテスト合格したばかりのルーキーは、この試合がアース・モンダミンカップ(6月)の国内ツアーデビューからわずか2試合目、21世紀(01年)に生まれた選手の優勝は初めてという偉業だった。
笹生は19年11月から“レジェンド”ジャンボ尾崎将司(73)の指導を仰いでいる。スケールの大きなゴルフは師匠譲りかと思うほどで、ドライバーショットの飛距離は平均260ヤードを超えてくる。本人はローリー・マキロイのスイングを完全コピーしたようだが、飛距離のアドバンテージを生かすプレーはまさに“女ジャンボ筆頭候補”。飛ばすだけでなくショートゲームがうまいのも師匠の域に近づく可能性を秘めている。
最終日はその持ち味を存分に発揮した。笹生にとってパー5はすべてチャンスホール。2番で残り60ヤードの第3打を3メートルにつけてバーディーを奪うと、9番は2オンに成功し、前半だけで5バーディーを奪った。優勝を決定づけたのは487ヤードの16番だった。第1打を283ヤード飛ばし、ピンまで残り195ヤードの第2打を6番アイアンでピン手前2メートルに2オン成功。難なくイーグルパットを沈め、右の拳に力を込めた。
最終18番も堂々としたプレーぶりだった。ウイニングパットは80センチ。これをあっさり沈めると、はにかんだような笑みを浮かべてから帽子を取って感謝の気持ちを表した。「最後のパットはビビって打った。ヤバイ感じだったけど、入ってよかった。うれしいので、泣くことはなかったです」。泣かなかったのは目先の1勝が目標ではなく、その先にある大きな目標を見据えているからだろう。
飛距離は現在の国内女子ツアーでは文句なしにNo.1。本人が言っているようにマキロイを“完コピ”したという豪快で正確なスイングを支えているのは、強じんな体、特に下半身だ。笹生は01年6月20日、日本人の父とフィリピン人の母の間に生まれた。シングルハンディの腕前を持つ父・正和さんの指導で、8歳からフィリピンで本格的にゴルフに取り組み、技術と平行して毎日2時間のランニングを欠かさないなど下半身を重点的に鍛え、現在の体力の基礎を作った。
ジュニア時代から頭角を現し、14歳でフィリピン女子ツアー優勝。18年アジア大会(インドネシア・ジャカルタ)金メダル。19年オーガスタ女子アマで安田祐香と並んで3位に食い込んでいる。その才能が“レジェンド”尾崎将の指導を受けて、一気に開花したのだろう。笹生は優勝後に「ジャンボさんは私が気をつけなければいけないところを1ポイント、1ポイント教えてくださる。とてもありがたいです」と感謝の言葉を述べている。師匠も関係者を通じ「「パワーとスピードを兼ね備えた体を作り上げた本人の努力以外になし。アメリカでトップになりたいと意識していたけど、見えてきたのではないかな。まずは1勝。よかった」と祝福の言葉を贈った。
笹生はこの2週後のニトリレディース(北海道・小樽CC)で2試合連続優勝を達成し、ケタ違いのポテンシャルを示した。近い将来の目標は米ツアー参戦だが、東京五輪についてはフィリピンから出場を目指す考えだという。笹生は女子ゴルファーのイメージを大きく変える革命児であり、こういう選手がスタンダードになれば、女子の試合セッティングも変わっていかざるを得なくなるだろう。