レコ大新人賞 新里宏太の武器とは?

 昨年7月に「HANDS UP!」でデビューし、12月30日に発表された「第55回 日本レコード大賞」で最優秀新人賞に輝いた現役高校生歌手・新里宏太(18)。壇上でHANDS UPポーズを決めクールに喜ぶ姿は、新人離れした大器であることを印象づけた。だが、栄光をつかむまでにはさまざまな苦労もあった。新里が、中学時代のいじめと、独学で習得したメンタリズムによって克服した経験を、本紙に語った。

 喜びのあまり泣き崩れて、歌うことさえできない‐。レコ大最優秀新人賞を受賞した歌手のお決まりだ。

 しかし、男性ソロでは1981年の近藤真彦以来32年ぶりに10代で頂点に立った現役高校生は違った。

 「名前を呼ばれてメッチャ驚きました。1年間ここを目標にやって来ました。これからも頑張りたいです」。きっぱり語ると、一粒の涙もこぼさず、笑顔で受賞曲を歌いきった。

 完璧なまでに自身のメンタルをコントロールするそのルーツは、中学時代に体験した「いじめ」にあった。

 「小学校までは明るかったのに、中学でなぜかいじめられて“陰キャラ”になった。自分を変えなきゃと思った」

 ふらっと訪れた書店で1冊の本と出合った。英マジシャン、ダレン・ブラウンの「メンタリズムの罠(わな)」。「メンタリズム=心理学や錯覚などを利用した人心掌握術」を解説した同書には「他人を変えるのは時間がかかる。自分を変えろ。自分を見つめ直せ」と書かれていた。

 「500ページ近くある本を1日で読み、それをもとに実践してみたんです。いじめっ子に気持ち悪いくらいにフレンドリーに明るく話しかけてみると、向こうは心理的に引いて、あきれて近寄らなくなりました。結局、自分が何もしないからいじめられていたんです」。

 いじめを克服したことで、自分の殻を破り、自信が持てるようになった。

 音楽好きだった両親の影響で漠然と夢見ていた歌手への道は、11年のジュノン・スーパーボーイ・コンテストで開けた。メンタリズムに裏付けされた堂々としたステージと、抜群の歌唱力に、10以上の芸能事務所が争奪戦を繰り広げた。

 「本当は学校の先輩が、学生証の写真を使って勝手に応募していたんですけど、夢がかなって本当にうれしかった」

 昨年7月に発売したデビュー曲は、人気アニメ「ワンピース」の主題歌に抜てきされヒット。かつてのいじめられっ子は今や、音楽界の海賊王をめざし力強く船出している。

 新里にはメンタリズムともう一つ、冷静になれる武器がある。オーディションを受ける際に、祖母が教えてくれた言葉だ。

 「『あおいくま』。あせるな、おこるな、いばるな、くじけるな、まけるな、の頭文字です。ステージの袖で唱えると不思議に落ち着く。レコ大のときもやりました」

 今春、高校を卒業。都内の大学に進学し本格的に心理学を勉強する予定だ。

 「大学生になったら、知識を生かしてクイズやバラエティーの番組にも出演したい。音楽ではアルバムを発売したりコンサートをしたり…やりたいことがありすぎるくらい」と夢は広がるばかり。

 最後にキャンパスラブは?と尋ねると「う~ん。心理学科なので、同級生には心を見透かされているようで、ちょっと怖いですね」とファン心理を考えた答えが返ってきた。

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