村上春樹さん「多崎つくる」裏話披露

 英北部エディンバラで開かれている国際ブックフェスティバルに24日、作家の村上春樹さん(65)が登場し、今月英訳版が発売された長編「色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年」について、自らの体験に基づいて執筆したことなどを語った。英訳版「多崎つくる」は、米紙ニューヨーク・タイムズのベストセラー・ランキングでハードカバーのフィクション部門の首位に立つなど、大きな反響を呼んでいる。

 英紙の文芸担当記者との対談に臨んだ村上さんは「状況は全く違うが、自分も主人公と似た(仲間外れの)経験をしたことがある」と告白。「傷ついた気持ちは長い間残る。この感情について書きたかった」と執筆の理由を明かした。

 小説を書く際の過程についても「毎日、頭の中にある地下室に下りていく。そこには怖いものや奇妙なものがたくさんあり、そこから戻ってくるには、体も丈夫でなければならない」と独特の表現で語った。

 作家という仕事は「上司もいないし、通勤もしなくていい」と魅力を語った上で「アーティストやクリエーターというよりも、エンジニアや修理屋のようなものだと思っている」と話した。作家でなければ何をしたいかとの質問には「東京でまたジャズクラブをやりたい」と答えた。

 約600人を収容できる会場は満員で、開場前から多くの村上ファンが長蛇の列をつくった。

 村上さんの話を聞くために英南西部ブリストルから長距離バスで11時間かけて来たというオリ・ヘインズさん(29)は「執筆過程の話を聞けたのはとてもよかった。自分にとって村上作品は、現実を忘れて迷い込んでいく夢のようなものだ」と興奮した様子で話した。

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