大村智氏にノーベル医学生理学賞

 スウェーデンのカロリンスカ研究所は5日、2015年のノーベル医学生理学賞を、アフリカなどの感染症に大きな治療効果を挙げている薬剤「イベルメクチン」を開発した大村智・北里大特別栄誉教授(80)に授与すると発表。年間3億人に投与され、命を救う発見が最高の栄誉に輝いた。日本人の受賞は2年連続23人目。医学生理学賞は12年の山中伸弥京都大教授(53)以来で、3人目の快挙となる。

 都内の北里大で会見した大村氏は、最初に報告した人を問われ「心では今は亡き家内。研究者として一番大変な時に支えてくれた」と、約15年前に60歳で亡くなった妻の文子さんに感謝した。長女には電話で「ノーベル賞が取れたみたいだ。びっくりした。まさか取れると思っていなかった」と弾んだ声で話したという。

 受賞が決まったのは大村氏と米ドリュー大のウィリアム・キャンベル博士、中国中医科学院の屠とゆうゆう博士。大村氏とキャンベル氏は同じテーマの共同受賞で、屠氏は抗マラリア薬の発見が授賞理由となった。

 大村氏は、日本の土壌で見つけた細菌の作り出す物質が、寄生虫に効果があることを発見。1973年からの米メルク社との共同研究でイベルメクチンを開発した。この薬は線虫類やダニ、ウジなどの寄生虫に高い効果があり、動物用の薬として普及した。

 動物だけではなく人にも有効と判明。失明することもある熱帯病のオンコセルカ症(河川盲目症)や、リンパ系フィラリア症(象皮症)の特効薬となった。世界保健機関(WHO)は、2020年代にいずれも撲滅できると見込んでいる。日本でもダニが原因の疥癬(かいせん)症や、沖縄に多い糞(ふん)線虫症などの治療に威力を発揮している。

 大村氏は「私の仕事は微生物の力を借りているだけ」と謙虚。教員で多忙な母の代わりに面倒を見てくれた祖母から「人のために役に立ちなさい」と繰り返し諭され「人の役に立つことをやりたいと思っていた」と振り返った。若い研究者には「自分は人の2倍も3倍も失敗している。失敗を繰り返してもやりたいことをやりなさい」と語りかけた。

 授賞式は12月10日にストックホルムで開かれ、賞金800万クローナ(約1億2千万円)が3氏に贈られる。

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