ここ数年、“グラドル冬の時代”という言葉をよく目にする。近年、グラビアアイドルの世界に起きた大きな変化に、グループアイドルの参入がある。ＡＫＢグループなどに所属するアイドルがグラビアを多く飾るようになった。結果、“専業”のグラドル勢が多大な影響を受けたであろうことは想像に難くない。それ以前に、出版不況の大波にも襲われている。

　そんな逆風の中で１１月２０日、デビュー１１年で初写真集を発売する快挙を成し遂げたグラドルがいる。その名は鈴木咲。撮影時２７歳、発売時には２８歳になっていた“ベテラン”がグラドル冬の時代の生き残り方を語った。

　「つい２～３年前までは、写真集を出せずにグラビアを引退するんだろうな、と思っていました。写真集を出せないで引退していく子たちをたくさん見ていました」

　週末の秋葉原では、グラドルのＤＶＤ発売イベントが１日に何件も行われる。鈴木自身、ＤＶＤは何枚も出した。写真集はＤＶＤに比べてコストがかかり、出すハードルがより高いアイテムだ。それだけに価値は高い。

　鈴木は１６歳でスカウトされ、撮影会のアルバイトからグラビアの世界に飛び込んだ。「最初の２～３年は顔が引きつって笑えませんでした」という。

　グラビア活動を辞めようと思っていたところ、関係者に「ちゃんとした雑誌を紹介するからやってみたら」と背中を押され、漫画誌の人気投票で「ある程度投票してもらった」。７８センチのＡカップという貧乳で、それまで「誰が見るんだ？」と疑問に思っていたが「見てくれる人がいるんだ！」とやる気になり、１９歳で上京した。

　とはいえ“グラドル冬の時代”が到来し始めていた時期。

　「仕事ないな、というのを肌で感じていました。一番グラドルとして活動しやすい２０～２５歳が、完全にかぶっていました」

　出版不況もあった。

　「雑誌（の状況）が厳しく、廃刊になるところもあってグラドルの枠が狭まって。その狭い枠にグループアイドルが入っちゃって。写真集を出せるのはすごいこと（という時代）になりました」

　上京後もしばらくは撮影会の仕事しか来なかったという。

　時代の荒波をもろにかぶった格好だが、救ってくれたのも時代の波だった。「ブログやツイッターで、ファンと身近でやりとりできて、声がすぐ聞こえる」－ＳＮＳ時代が本格的に到来したのだ。

　「仕事してないのに、意外とファンの人がついてくれて、応援してくれているんですよ。ツイッターでつぶやくと、ファンの人が増えていく。応援していた人の声が身近で聞こえたのが、あきらめなかった、頑張れた理由です。『私は続けていいんだ』って。そうした声が聞こえなければ『需要がないんだ』って思っていました。途中で心が折れていたと思います」

　鈴木はインターネット放送によく出演するが「ニコ動もコメントが来るし、出れば出るほどファンもいじってくれます。イメージガールをしばらくやっていた『週刊ファミ通』のファンが、私のことも一緒に応援してくれるようになったり」という効果もあった。

　「グラビアアイドルとしてはタイミングが悪かった」鈴木だが、そのタイミングは、ファンとの距離を縮められる、ネット空間の広がるタイミングでもあった。鈴木のツイッターのフォロワー数は現在、７万人に上る。

　苦節１１年でこぎ着けた初写真集のタイトルは「サキミダレ」。「応援してくれる人がたくさんいて出せました。『良かったよ』って言ってもらえることを考えて頑張りました」と素直に感謝する。

　雑誌のグラビアはページ数に限りがあるため定番ショットになる傾向があるが、写真集では「面白いこともたくさん載せられる」という発見もあった。鈴木は「１１年やってきたことを踏まえた“ベストアルバム”ですね」と胸を張った。

　「私たちはグラビアアイドルなので、写真を撮っていただく、見ていただくのが一番のお仕事だと思っています」と、誇りを持ってグラビアの仕事に取り組んでいる鈴木だが、「３０歳になっちゃうと写真だけではやっていけない」と、冷静に将来を考えている。

　苦手なトークはニコ生などで鍛えられ、今ではアイドルイベントでＭＣを任せられるほど。２０歳の頃に共演したあるタレントと最近、仕事をした際「変わったね。すごくしゃべれるようになったね」と褒められたという。

　趣味のサバイバルゲームを生かした仕事も増えてきている。「胸のない女性目線で」下着を開発したいという夢も芽生えてきた。

　鈴木は冬の時代を「グラビアとしては大変だったけど、タレントしてはしゃべれるようになったり、いい時代だったと思います」と総括した。（デイリースポーツ・藤澤浩之）