中村蒼 溶け込む役作りで際立つキャラ
こんなにも次々と印象を変える俳優になるとは思わなかった。きょう16日に最終話を迎えるフジテレビ系ドラマ「無痛~診える眼~」(後10・00)で無痛症の青年・イバラ役を演じる中村蒼(24)だ。
頭をそり上げたビジュアルもさることながら、難病を抱え、しかも、物語の核心となる一家殺人事件の秘密を握る難役。起用理由は近年の“振り切った演技”だったといい、まさに期待に応えた形だろう。
来年が俳優デビュー10年目。デビュー翌年の07年にドラマ初主演を務めるなどキャリアは豊富だが、代表作と呼べるものは少なかったように思う。2011年のドラマ「花ざかりの君たちへ~イケメン☆パラダイス~」では“イケパラ男子”の1番手だったが、印象は強くない。
根は寡黙な九州男児。“際立つ”というより“溶け込む”といった役作りで、過度に浮かないのが持ち味であると同時に、損をしている部分でもあったと思う。ところが、近年の役選びは“溶け込む”ことで“際立つ”特異なキャラが増えていた。
NHK BSプレミアム「洞窟おじさん」では、真っ黒な顔にイノシシの毛皮を着た洞窟暮らしの青年役。公開中の映画「春子超常現象研究所」では心を持ったテレビ役と、もはや人間ですらない。
中村はテレビ役のオファーを受けた際、「軽くパニックを起こしました」と振り返っているが、そんな役にも“溶け込める”のは才能だろう。「無痛」でも、序盤の撮影で監督に「立ってるだけで雰囲気が出るから楽でいいな。おいしいね」と冗談を言われたといい、饒舌に演じずとも、作品に存在するだけで違和感を残せる役がハマるのだ。
映画「東京難民」でのネットカフェ難民、テレビ東京系「永遠の0」の特攻隊員、NHK BSプレミアム「本棚食堂」での少女漫画家…と、昨年からの役柄は実に多彩。NHK作品への出演が多いのも特徴的で、過度な個性をまき散らすことなく特異なキャラを演じられる堅実さが買われているのだろう。
「基本にあるのは、監督に添いたいという気持ち」と語り、監督の演出を第一とする役作りへのアプローチは変わらない。学生や新米社会人の役が多かった10代~20代序盤を経ての最近を「経験できないような人間の人生を歩みたいと思うようになったら、自然とそういう(変わった)役がくるようになった」と明かす。
「印象の薄いイケメン」だと思っていたら、いつの間にか「変わった役の多い個性派」になっていた、といったら大げさか。周囲がようやく俳優・中村蒼を“発見”したともいえ、「無痛」の貸川聡子プロデューサーが「爽やかな好青年というイメージだった中村さんが、ドラマや映画などで振り切った演技をしているのを見て、実は彼の中に特殊性があるのではと思い、オファーした」と説明した起用理由は、今の中村を的確に表現した言葉のように思う。
胸にあるのは反骨心だという。05年にジュノン・スーパーボーイ・コンテストのグランプリを受賞したのがデビューのきっかけ。肩書を乗り越えたいとの思いがある。
「アイドル色の強いところからデビューさせてもらって、感謝していますけど、イメージを払しょくしたい、役者として見て欲しいという気持ちがある。それで、こういう風にやってきたんだと思うんですよね。なんでもやりますって感じです」
もちろん、ビジュアルを変えるだけでなく、「無痛」のクランクイン前には無痛症の子を持つ親のブログや映画を見て病気について勉強したという。「ちゃんとやらないと実際そういう病気の方々に申し訳ないという思い」が、頭を丸める以前の覚悟でもある。
インタビュー時には「常に壁を壊していかないといけない仕事だと思います。自分も変わっていけたらいい」と、静かな口調ながら、胸の内の熱さが伝わってきたのが印象に残る。次はどんな役に巡り会うのか。来年、俳優業10年目の節目を迎える中村蒼に注目したい。(デイリースポーツ・古宮正崇)