海外アーティストも「心の復興」願う
東日本大震災直後、多くの外国人アーティストが来日をキャンセルしたり、多くの外国人が離日したりする中で、予定通り日本ツアーを決行したのが米国の人気ハードロックバンド「MR.BIG」だ。チャリティー楽曲を発表したり、2014年のツアーでは11年にキャンセルせざるを得なかった仙台で公演を行ったり、被災地と被災者に寄り添い続けるMR.BIGのギタリスト、ポール・ギルバート(48)が、米国人アーティストの立場から震災を語った。
ギルバートは「1989年の初来日以来、日本は僕の中で最も重要な国」だという。
日本人女性と結婚し、14年に息子が生まれたのを機に「日本のように四季がはっきりしている街に住みたい」とロサンゼルスからオレゴンに引っ越した。MR.BIGだけでも10度の来日公演を行い、プライベートでも夫婦で日本の温泉を回ったり、義父母に孫の顔を見せたりと、何度も来日している。
「(ブレーク前から)日本の皆さんの人生に受け入れてくれたのが何より名誉だと感謝している」というMR.BIGだけに、震災が起きた時も日本公演実現の道を探った。
「5年前、被害が甚大すぎて把握するのが困難だった。震災直後にツアーをするにあたってたくさんの話し合いを重ねたけど、日本のプロモーターが89年から付き合いのある方で、本当に率直に色んな意見を交換した上で『だったら来てください』と。今思うと、本当にああいう決断を下してくれてうれしく思う。キャンセルするのは簡単だったはずなのにしなかった。ありがたかった」
非常時にもかかわらず来日し、震災から1カ月もたたない4月7日にツアーを開始。コンサート会場では自ら募金活動を行い、チャリティー楽曲「ザ・ワールド・イズ・オン・ザ・ウェイ」を発表するなど、多くの日本人を勇気づけた。
ギルバートも「本当に良くしてくれて、ツアーさせてくれたことを今でも感謝しているし、少しでも力になれたのならうれしい」と、バンドと日本の絆が深まったことを実感している。
とはいえ東北は甚大な被害を受けており、盛岡公演は会場を変更して開催できたが、仙台公演は中止された。
「実際にツアーで仙台に戻るまで3年間かかった。何度も被災地に行かなきゃ、チャンスはないかという話は出ていたけど、なかなかタイミングが合わず、受け入れ態勢も整わなかった」
14年の日本ツアーでは仙台、盛岡公演を開催した。「3年たった分、僕たちの音楽を楽しむ雰囲気ができていた」と“心の復興”が進んでいることを感じたという。
ギルバートは「妻が日本人なので、自宅でも日々、日本のテレビ番組をよく見ているんだ。だから震災関連の番組もよく見ているし、そういう話題も知っている。5年という月日が経過したけど、この先、普通の生活に戻れるまでにあと何年かかるのか…」と、今も常に被災地や被災者を気にかけている。
「少しでも僕やMR.BIGの音楽が希望や力、癒やしになってくれればいいと思う。苦しい時に僕たちの音楽を聴いていただければと思う」-太平洋の向こうにも、被災地と被災者に寄り添い続けるロッカーがいる。