藤井四段は棋界のヒーローになれる! 日本将棋連盟会長・佐藤康光九段が太鼓判
昨年12月のデビュー戦から無傷の19連勝を続けている、将棋の最年少プロ・藤井聡太四段。非公式戦ながら、第一人者の羽生善治三冠(46)を破って一躍話題となった。新たな将棋ブームを巻き起こしている14歳の天才について、そして今後の将棋界について、歴代6位のタイトル通算13期を誇る強豪で、日本将棋連盟会長を務める佐藤康光九段(47)に聞いた。
最年少棋士でありながら、驚異的な強さで連勝を続ける藤井四段。佐藤会長も、今年4月にAbemaTV将棋チャンネルで放映された「藤井聡太四段 炎の七番勝負」の第6局で対戦し、95手で負かされた。
佐藤会長は藤井四段の将棋について「序盤、中盤は、いたって普通という言い方は変ですが、それほど違和感を感じることもなく、新しい世代の将棋だと感じることはなかったのですが、終盤に入ると、突然ギアが変わる感じで負かされた。そのギャップに驚きました」と分析。「私が対局したころは、まだアンバランスな部分もあるのかなと感じたんですが、今は日に日に強くなっている」とその成長度を評価した。
また、藤井将棋の特徴を「珍しいぐらいミスが少なく、終盤の強さは飛び抜けている。そこが際立っている」と分析。その上で、「プロも人間ですから、あまりにリスクをとるような勝ち方は嫌う人が多いんですね。コンピューターはそういうところがないんですけど、藤井さんも、一つ勝ちを見つけたら、どんな怖い変化でも踏み込んでいって勝利をものにする」と棋風を評価した。
過去の棋士と比較すると「タイプとしては、谷川(浩司)先生に近い部分はある」としつつ、「あの若さでその力を備えているというのは恐ろしい」と驚く。「羽生さんとか、渡辺(明)さんとかいらっしゃいますけど、どこか粗削りなところはあった。そういう部分は見当たらない感じがしますね」。歴代の最強棋士以上の“評価”を与えた。
時流柄「コンピューター世代の申し子」とも称される藤井四段だが、佐藤会長は「逆にそういう感じがしないんですよ」という。「終盤の正確さはコンピューターに通じるところはあるんですが、序盤、中盤に関しては、特に最新の形をとるわけでもなく、目新しいという感じはなかった。『人間』のスタイルを踏襲している」。機械と人間の強さを融合した存在であるという印象を語った。
将来性についても「まだ完成された形とは思わない。伸びしろがどうかという評価はあるんですが、そうではなくて、元の基準が高いので、ここからどこまで伸びていくのか、想像が尽きませんね…」と太鼓判。羽生三冠以来の全冠制覇の可能性についても「秘めていると思います」と言い切った。
佐藤会長が高く評価するのは、盤上の姿だけではない。「受け答えを見ていると、中学生とは思えないぐらいしっかりしている。感心します。ご両親のしつけや師匠の教育がしっかりなされていたんだろうなと」。その人間力にも言及した。
コンピューターとの対戦で、現役の名人が完敗してしまう時代。佐藤会長は「プロを超えたと言われても仕方がない部分はある」と真しに受け止めた上で、「ある意味、将棋というゲーム自体が、限界に達しているわけではなく、まだまだ奥が深いものだと教えてもらっていると思うので、コンピューターに勝つということには諦めずにチャレンジして行かなきゃいけないと思いますね」と冷静に話した。
その旗手としての役割も、必然的に藤井四段を中心とした若手棋士に課せられることになる。「藤井さんはまだタイトルをとるとか優勝するとか、結果を残したわけではない。実績的には、全く比較してはいけないんですが、羽生さんの時のような注目が集まっているというのは、やはりありがたいことだと思っています」
さらに「世間的にも、ヒーローの存在というのを求めているというか、常に夢を与える存在になれると思います。将棋の世界にもそういう人が出てきたのかなと思いますね」と、将棋界の“救世主”としての期待までものぞかせた。
◇◇◇◇◇◇
佐藤康光(さとう・やすみつ)1969年10月1日生まれ。京都府八幡市出身。1982年12月に6級で関西奨励会に入会。87年3月に四段昇段。90年に第31期王位戦でタイトル戦初挑戦。93年、第6期竜王戦で羽生善治五冠(当時)を破り初タイトル獲得。98年に谷川浩司名人を破って初の名人位獲得。06年に永世棋聖の資格を得る。タイトル獲得は歴代6位の通算13期。正確な差し手から「緻密流」の異名もとる。