小林麻央さん死去 松本クリニック松本浩彦院長の見解
16年6月に小林麻央さんが乳がんを公表されて、何度かコメントさせていただきましたが、今だから申しますと、意図的に事実とかけ離れたコメントも述べてきました。その理由は、あの時点で早ければ3カ月、遅くとも年は越せないだろうというのが常識的な見解だったからです。
乳がん全体のおよそ3パーセントに「若年性乳がん」という特殊な乳がんがあります。また全体のおよそ1割ほどですが「トリプル・ネガティブ(TN)」という、非常に悪性度が高く、予後の悪いタイプがあり、若年性乳がんの方は特に高頻度でこのTN型が多いのです。
若いから油断もあるのでしょうが、発見された時にはすでに進行がんで、周囲の臓器に浸潤していたり他の臓器に転移しており、手術不能である場合がほとんどです。抗がん剤で腫瘍を小さくしてから手術するなら、術前化学療法は長くて半年。ところが公表された時点ですでに1年8カ月続けていたというのは長過ぎますし、そしてまだ手術にいたっていませんでした。この点から考えて小林さんの場合、TN乳がんである可能性が非常に高かったのです。
おそらく何カ所かの医療機関を訪ねて、考えられるあらゆる治療法にトライされたはずです。調子の良い時もあったと思いますが、長い目で見ていれば日ごとに悪化していく病状は、患者さん自身が一番よく分かります。
公表された時点で、恐らくもう、どうにもならない状態、年が越せるかどうか、という状況だったと思いますので、よくここまで頑張られたなという気持ちが一番です。ご本人の精神力に加えて、応援し励ました続けたご家族、そしておそらく、何とかしようと必死に治療を続けたドクターにも、心から敬意を表したいと思います。
◆松本浩彦(まつもと・ひろひこ) 兵庫県芦屋市・松本クリニック院長。内科・外科をはじめ「ホーム・ドクター」家庭の総合医を実践している。同志社大学客員教授、(社)日本臍帯・胎盤研究会会長。