紅白出場アーティストが打ち明ける俳優初挑戦【1】弁当は思いやりのパッケージ
渡辺俊美(50)は1990年代、若年層を中心に人気を博し、現在も精力的に活動しているヒップホップグループ「TOKYO No.1 SOUL SET」のメンバーで、2011年にはサンボマスターの山口隆ら福島県出身者で組んだバンド「猪苗代湖ズ」でNHK紅白歌合戦に出場したベテランのミュージシャンだ。
そんな渡辺が、映画「パパのお弁当は世界一」で、俳優デビューにして初主演を務めている。五十路を迎えて新境地を開いた渡辺に心境を聞いた。
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映画は、離婚した中年男性が同居する高校生の娘のために3年間、毎日弁当を作り続けた実話をつづったツイッターが原作。渡辺が父親を、モデル、グラビアアイドルとしてブレークしている武田玲奈(20)が娘を演じている。
映画の主題歌になったシンガー・ソングライター、片平里菜(25)の「なまえ」のミュージックビデオに参加したことが、映画に出るきっかけだった。
「セリフ大丈夫かな、くらいの感じでした。俳優業をやりたいとかそういうのはどうでも良くて、この(ツイッターの)父娘と片平里菜ちゃんに協力しようという心の方が強かったですね」
渡辺自身も離婚後、同居する息子が高校を卒業するまで毎日、弁当を作り続け、その経験をつづったエッセー集「461個の弁当は、親父と息子の男の約束。」を14年に発表。1年弱で9刷を重ねるベストセラーとなった。翌15年に漫画化、NHKでは「461個のありがとう。~愛情弁当が育んだ父と子の絆~」としてドラマ化され、別所哲也が渡辺を演じている。
「息子は当時、思春期で、仲悪くはなかったけど、会話もそんなにないだろうと。思い出を作りたかったのが(弁当作りの)きっかけでした」という渡辺だけに、ツイッターの父娘への共感も大きかったようだ。
「自分と家族、自分と大切な人との関係で、食べ物が色んなものを繋げていく気がします。おいしいものを食べたら息子に食べさせたい、嫁に食べさせたい。思いやりというか。弁当はそこに(思いやりが)パッケージされている。それを毎日息子に作ることによって、ご飯は大事だよねって思ったんですよね。『今日はご飯ないの?』って息子に言われるのが、すごく無責任(に感じられて)」と当時を振り返る。
演技は「初めて」で、現場では「ドキドキでした」というが、被写体になること自体はミュージックビデオで慣れている。
「緊張感はプロモーションビデオを撮るのの延長線上で、すごくリラックスしてできました。プロフェッショナルなスタッフがたくさんいて、感動して、『こうやって映画作るんだ』と楽しみながら撮影しました。どれだけ自然にできるのかということを考えながらやっていました。NGはほとんどなかった。極端に『あ、ダメだ』というのはなかった」
撮影にはすんなり入れたが、戸惑いもあった。実生活で弁当を作っていたのは息子だが、映画では娘。武田と父娘を演じるのは「すごくドキドキしましたね。やっぱり息子とは違いますね。ドギマギします。気をつかいますね」という。
「初めて会った時にけっこうバカを見せて、すんなり話ができた」と、30歳下の武田とコミュニケーションをうまく取れたのはミュージシャンという職業柄。「特にジェネレーションギャップはありませんでした。他の人に比べたら、若い子に会う機会もしょっちゅうありますしね」と説明する。
武田とは「始まる前はいっぱいしゃっべて、現場にはある程度距離を保って」臨んだ。
「演技の中で絡むのは緊張しましたが、(演技では先輩の)玲奈ちゃんにリードされたというか、あっちが真剣だからこっちも真剣になる。キャッチボールができて。玲奈ちゃんがすごく頑張って、感謝しています」
父と娘の関係を演じるにあたっては、渡辺自身が育った家庭も参考になった。
「僕は姉が3人いるので、親父と姉ちゃんの感じをずっと想像しながらやって。しょうもないところで娘を怒ったりするところ、そこはすごく出せたかな。男関係で『そうじゃないかな』っていう不安を突っ込めない親父のジレンマも。気を使えば使うほど、ドツボにはまるっていう」
今は大学生になって独立した息子からは「パパ、玲奈ちゃんと(映画を)やるの?いいな」とうらやましがられた、と打ち明けた。
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映画「パパのお弁当は世界一」は9月2日から福島・イオンシネマ福島、同16日から大阪・テアトル梅田、同23日から名古屋・伏見ミリオン座で1週間ずつ公開される。