イシグロ氏にノーベル文学賞 日本出身作家23年ぶり3人目快挙
スウェーデン・アカデミーは5日、今年のノーベル文学賞を、長崎市生まれの英国人小説家カズオ・イシグロ氏(62)に授与すると発表した。ロンドン在住。英語で執筆し、代表作「日の名残り」で知られる。日本出身の作家としては1968年の川端康成、94年の大江健三郎氏に次ぎ3人目、23年ぶりの受賞。下馬評が高かった村上春樹氏(68)は今年も選ばれなかった。
キッチンにいるときに関係者から電話を受け受賞を知った。イシグロ氏は会見で「びっくり仰天の喜び。予想していなかった。信じられないできごと」と表現した。加えて「私の世界観には日本が影響している。私の一部は、いつも日本人と思っていた」と述べた。
スウェーデン・アカデミーは授賞理由について「偉大な感性を持った小説によって、世界とつながる幻想的な感覚の下にある深淵(しんえん)を明らかにした」受賞理由を説明。関係者は「完成度の高い作家。(英作家)ジェーン・オースティンと(チェコの作家)カフカの要素を併せ持っている」と評価した。
54年、日本人の両親の間に生まれた。漢字表記は石黒一雄。海洋学者だった父の仕事の関係により5歳で渡英、80年代に英国籍を取得した。英語で執筆し、人間の意思疎通の難しさや記憶の不確かさをテーマとした一連の作品は情景描写の巧みさなどで高い評価を受けている。
81年の短編小説を皮切りに、82年、英国に在住する長崎出身の女性の回想を描いた長編小説「遠い山なみの光」で王立文学協会賞。89年には「日の名残り」で、英国で最も権威がある文学賞、ブッカー賞に選ばれた。貴族に仕えた執事の苦悩を描いた同作品は93年、アンソニー・ホプキンス主演で映画化された。
2005年に発表した「わたしを離さないで」は世界的なベストセラーになり、故・蜷川幸雄さん演出の舞台や綾瀬はるか主演のテレビドラマになるなど、日本でも作品が親しまれる。
有力候補だった村上氏とも親しい。村上氏は「村上春樹雑文集」(新潮社)の中で「一人の小説読者として、カズオ・イシグロのような同時代作家を持つことは、大きな喜びである」と記している。イシグロ氏も「村上さんの作品に表れる悲しさの漂うユーモアが好き」と語る。
ノーベル文学賞の賞金は900万クローナ(約1億2500万円)。授賞式は12月10日にストックホルムで行われる。