【羽生・藤井公式戦初対局】(2)羽生将棋の“神髄”-際立つ勝利への執着心

 永世七冠の称号を手にした羽生善治竜王と最年少棋士・藤井聡太五段が17日、朝日杯将棋オープン戦準決勝(東京・有楽町朝日ホール)で公式戦初対局する。棋界の記録を数々打ち立ててきた第一人者と、その記録を塗り替えてきた若武者。将棋界の未来を占う一局を4回の集中連載で追う。

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 史上最多のタイトル99期をはじめ、唯一無二の七冠独占、そして永世七冠に輝き、将棋界では初の国民栄誉賞も受賞した羽生竜王。そのデビュー当時からしのぎを削り続けてきた森下卓九段(51)に、羽生将棋の“神髄”を尋ねた。

 森下九段は「無冠の帝王」と称され、過去に6回タイトルに挑戦したが、すべて敗退。うち4回は、羽生竜王の前に屈した。そんな森下九段は、羽生竜王の最大の特長を「勝利に対する執着心の強さ」と指摘した。

 プロになった当時の羽生竜王を「棋士内では今の藤井さんと同等の注目度でした。奨励会時代から『スーパー羽生』という異名があったぐらいですから」と振り返った森下九段。当然その妙手好手に鮮烈な印象があったかと思いきや、「実は、将棋から伝わってくる強さというのは、あまり印象にないんです。個々の手というより『勝負』に対する強さが際立っていたと思います」と話した。

 その上で、一世代上の天才棋士として名高い谷川浩司九段(55)を引き合いに出し「谷川先生は、ひらめきのすごさを感じることがたくさんありました。でも羽生さんは、全体的な作りや流れがずばぬけていた」分析。その根底として「勝つことに対する執着心が、他の棋士に比べて桁違い」という部分が大きいという。

 勝負の世界に生きる棋士たちが、勝利に執着するのは当然。だが森下九段は「年を取ると、意外にそうでもないんですよ。勝ちたいと思う気持ちを保ち続けるのが難しい。だんだんと集中力がなくなっていくんです」と話した。

 その執着心を表す端的な特徴が、羽生竜王のトレードマークともなっている「手の震え」だ。森下九段は「普通、将棋に集中していても、手は震えないんですよ。若いときならともかく、年を取ると、震えたくても震えない。そこまで執着できないんですよね。それがいまだに震えるっていうのは、やはり勝ちたいという思いの強さなんでしょう」と敬意を込めて語った。

 17日の勝敗については「互角だと思います」としつつ、「ただ、ほんの一瞬ですが、集中力が途切れる心配があるのは、藤井さんだと思います」と指摘。羽生竜王はそのスキを見逃さないのか-。森下九段は、意味ありげに眼鏡の奥をキラリと光らせた。

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