生きる伝説「新宿タイガー」ドキュメント映画来春公開、寺島しのぶがナレーション
“生きる都市伝説”の人生が初めて映画になる。東京・新宿の繁華街で40年以上、虎のお面とド派手な衣装で新聞を配り、「新宿タイガー」と称されている新聞配達員の姿を追ったドキュメンタリー映画が2019年春に公開されることが19日、分かった。ナレーションは女優・寺島しのぶ(45)が務める。
タイトルは「新宿タイガー」。来年3月22日から東京・テアトル新宿でレイトショー上映が決まった。全国でも順次公開予定だ。
虎のお面に赤や黒のカーリーヘアのかつら、華やかな色彩の服を重ね着し、細身の体には虎のぬいぐるみが大量にぶら下がり、手にはラジカセ。総量は約10キロ。新宿虎は今年、70歳の古希を迎えた。
映画では台風の日にズブ濡れになりながら夜明け前のビルの閉じたシャッターに朝刊を差し込む姿が印象的だ。女子高生や外国人観光客らにはスマホを向けられる。新宿の風景として、昭和の時代から知る人ぞ知る存在だった人物の素顔が平成の最後に明かされる。
1948年2月に長野県で生まれ、67年に大学進学で上京。全共闘世代の社会運動には背を向けて映画館に通った。「大学に行っても授業がない。俺は学園紛争ではなく、高倉健さんの唐獅子牡丹に行った。怒りを人にぶつけるんじゃなく、内にぶつけるんだってことを健さんに教えられたよ」と振り返る。
今も配達の合間に映画館の最前列に座り、新宿の酒場を巡って映画や舞台に関わる人たちと語り合う。俳優・八嶋智人を「兄弟」と呼んで抱擁するシーンなど、その日常と同時に異質な存在を受け入れる新宿の魅力や歴史も描かれる。佐藤慶紀監督は「撮影期間は延べ1年。現場ではとにかくよくしゃべります。最近見た映画、出合った女性など。そして心の中からの叫びのような感じで相手を褒めます」と証言する。
24歳の時に「虎として生きる」と決意。73年から新聞配達を生業とし、75年から現在まで新宿の販売店に勤務。そもそも、なぜ「虎」なのかと尋ねると、「新宿・稲荷鬼王神社の屋台で虎のお面を見てビビッときたから」。野球やプロレスの“タイガー”ではない。ただ、「直感」に導かれたことを強調した。
公開を受け、新宿タイガーは「夢のようだよ。自分がドキュメンタリーになるなんて」と感無量。寺島がナレーションを務めることにも運命を感じる。
新宿文化を体現した若松孝二監督の作品「キャタピラー」(10年)に主演し、ベルリン国際映画祭で最優秀女優賞に輝いた寺島。「お母さんの藤(現・富司)純子さんといえば東映の緋牡丹博徒シリーズが最高だったし、舞台『滝の白糸』も見てる。その娘さんで国際女優の寺島さんが俺のことを語ってくれるなんて今でも信じられないですよ!」と歓喜の叫び。「いつも夢をありがとうね」と言い残し、眠らない街を自転車で駆け抜けた。
佐藤監督は「45年前、虎のマスクを付けて生きていこうと決めた時から自分の信念が全くぶれていません。彼はよく『お金よりも夢』と言い、全くその通りに生きています。団塊の世代の1人の人間としての生き方を劇場で体感して頂きたいです」と思いを込めた。
(デイリースポーツ・北村泰介)