テレ東の人気番組「家、ついて~」がソフト化されない理由
3月になると、テレビ業界では番組改編の話題が出てくる。テレビ東京は「なんでもやる元年!」というテーマを掲げたが、その精神を5年前から発揮している「家、ついて行ってイイですか?」は4月期も水曜夜9時から1時間枠で放送される。その一方、見逃した回をもう一度観たいという声もある。今後、ソフト化される可能性はあるのだろうか。著書「1秒でつかむ」(ダイヤモンド社)が注目されている同番組のプロデューサー・高橋弘樹氏に聞いた。
一般論として、映画やテレビの映像作品のソフト化でネックになる理由の一つとして、使用した楽曲の権利や高額な著作権料がある。「家、ついて~」ではヤマ場でビートルズの「レット・イット・ビー」が使われている。同曲が日本の映像作品で使われた例として、篠田正浩監督の角川映画「悪霊島」があり、劇場上映ではポール・マッカートニーが歌うオリジナル版が聴けたが、DVDやCS放送では別歌手のカバー版に差し替えられた。
くしくも「悪霊島」公開の1981年生まれである高橋氏に見解をうかがうと、「確かに『レット・イット・ビー』は使用料がそれなりにかかるとは思いますが、できないことはないと思うんですよ。権利処理すれば」と、ソフト化されない理由は“そこではない”と指摘。同氏は「パッケージ化の話もあるんですが、それをすると取材されることが嫌だという人がすごく増える気がするんです。一回で流し切るから、重いこととか、その瞬間の悩みとかをさらっと話してくれる人がいると感じています」と本質の部分を明かした。
偶然の出会いからのインタビュー。一期一会だからこそ、ディープな話も飛び出すというわけだ。そんな番組の核心を押さえた上で、高橋氏に「印象に残る3本」を尋ねた。
(1)大雪の日に20代女性について行くと母親と住んでいて、その1~2年前、国家機密に関わる仕事をしていた父親が判然としない亡くなり方をしていた。まるで映画のような世界の話だったこと、父の死後、たくましく生きている娘さんが印象深かった。
(2)べろべろに酔ったおじさんについて行くと、漫画家だという奥さんは末期がんで入院中。テレビが家に入ったことで、おじさんは初めて妻の部屋に入り、写真など人生の軌跡をまとめた終活の品々を発見。知らなかった伴侶の覚悟に気づいた。奥さんは番組を機に夢だった個展を開き、亡くなられた。
(3)別れることになっていたカップルがテレビカメラを向けられるという非日常の中で復縁して結婚。式にも呼んでいただいた。取材によって人生がリアルに好転した例。
高橋氏は「ネット配信はやっていますが、すぐ消えるようになっています。(インスタグラムの)ストーリーに近いですね。消え去るから言えちゃうみたいな。一期一会とか、刹那(せつな)的なものだから許される“暴露”ってあると思うんです。そこを崩されるとついて行けなくなるんじゃないかということが、(ソフト化を)踏み止まっている理由ですね」と解説した。
「一度限り」の番組作りにかけるテレビマンの哲学を感じた。(デイリースポーツ・北村泰介)