長男を包丁で刺したとして殺人未遂の疑いで逮捕された元農林水産事務次官の熊沢英昭容疑者（７６）が「川崎の２０人殺傷事件を知り、長男が人に危害を加えるかもしれないとも思った」との趣旨の話をしていることが３日、捜査関係者への取材で分かった。事件直前には、近所の小学校であった運動会の音に「うるせえな、ぶっ殺すぞ」と腹を立てた長男と口論になっていた。家族や子どもたちを傷つける恐れがあると考え、事件を起こした可能性があり、警視庁練馬署が動機を詳しく調べている。

　４日前に起きた痛ましい事件の容疑者に、同じ引きこもりの我が子を重ねた結果の凶行だったのか－。元トップ官僚が、引きこもりの長男を刺殺した動機に川崎事件が影響を与えた旨の供述をしたことが分かった。

　捜査関係者によれば、事件当日の１日、近所の小学校であった運動会の音に長男の英一郎さん（４４）が「うるせえな、ぶっ殺してやるぞ」と言ったと熊沢容疑者が説明しているという。

　熊沢容疑者は「（英一郎さんが）引きこもりがちで、家庭内では暴力や暴言があった」と説明。「身の危険を感じた」「周囲に迷惑を掛けるといけないと思った」との趣旨の供述もしている。

　熊沢容疑者は、「長男は中学時代から家庭内暴力をしていた」とも供述。捜査関係者によれば、暴力や暴言は、中学２年のころから始まり、最初は熊沢容疑者の妻に向けられていたが、その後、熊沢容疑者自身も被害を受けるようになったという。これらから長年にわたる暴力に思い詰めて事件を起こした可能性があり、警視庁練馬署が動機を調べている。

　英一郎さんは１０年以上前から都内の別の場所に住んでいたが、本人の希望で５月下旬に実家に戻った。別居中にはごみ出しを巡り近隣住民ともめることもあったという。

　またこの日、英一郎さんの傷が十数カ所に上ることも判明した。胸や腹など上半身に集中し、自宅で殺意をほのめかす熊沢容疑者のものとみられるメモも見つかった。

　事件は１日午後３時半ごろに発生。熊沢容疑者が「息子を刺し殺した」と自ら１１０番した。英一郎さんは、１階和室の布団の上に倒れた状態で見つかり、搬送先の病院で死亡が確認された。布団には大量の血痕があり、近くに包丁が残されていた。

　練馬署は３日、殺人容疑で熊沢容疑者を送検した。