フレディ・マーキュリー未発表音源7・26リリース D・クラークがプロデュース
英ロックバンド「クイーン」のボーカル、フレディ・マーキュリーの未発表音源「タイム・ウェイツ・フォー・ノー・ワン」が、ピクチャー盤アナログ7インチシングルおよびCDシングルとして26日に発売されることが19日、発表された。
「タイム・ウェイツ・フォー・ノー・ワン」は、ミュージカル「タイム」のコンセプトアルバム収録曲として1986年にレコーディングされた「タイム」の未発表バージョン。プロデュースはフレディの長年の友人で、「グラッド・オール・オーバー」など数々のヒット曲で知られる伝説のロックバンド「デイヴ・クラーク・ファイヴ」のリーダー、デイヴ・クラークで、完成までに2年の歳月を費やした。
シングルにはボーナス特典としてフレディとクラークのインタビューを収録。CDの裏面には86年に撮影されたフレディ、クラーク、共作者のジョン・クリスティの集合写真が掲載されている。
86年4月、英ロンドンのドミニオン劇場で初演された「タイム」にはローレンス・オリビエやクリフ・リチャードら豪華キャストが集結し、2年間の上演で100万人以上を動員。スターが勢ぞろいした記念コンセプトアルバムは数百万枚を売り上げた。
収録曲として、クラークがフレディに1曲歌ってもらいたい(「イン・マイ・ディフェンス」)と構想を練っており、フレディは85年10月、当時拠点としていた独ミュンヘンからロンドンに飛び、アビイ・ロード・スタジオでレコーディングすることに同意。クラークのセッション・ミュージシャン・バンドは4人組という最小限の編成だった。
ピアノを担当したマイク・モーランはクラークとは旧知の間柄で、それまで面識のなかったフレディにこの時初めて紹介された。これをきっかけに彼とフレディとのコラボ関係が始まり、やがて「バルセロナ」を共作するに至る。このタイム・セッションは、真夜中に、フレディの専属シェフを務めていたジョー・ファネリが振る舞う「極上の料理と、ウオッカとクリスタル・シャンパン」を味わいながら録音された。
当時のセッションについて、クラークは「僕らはものすごくウマが合ったんだ……何か気に入らないことがあれば、僕はハッキリそう言ったし、彼も同じだった……お互い、目指すところが同じだったんだよ。つまり、何か特別なものを作るってことだね」と語る。
何か他に曲はあるか、とフレディから尋ねられたクラークは「ある」と答え、ミュージカルの表題曲「タイム」を提供。86年1月、彼らは同曲を録音するため再びアビイ・ロード・スタジオに入った。リズムトラックを土台に開始されたこのセッションでは、48トラックのバッキングボーカル(フレディ、クリスティ、ピーター・ストレイカー)を録音。24トラックのテープレコーダーを2台同期させて行われたが、同スタジオでこれほどの量のバッキング・ボーカルが録音されたのは初めてだった。「タイム」の最終的なバージョンは96トラックからなる楽曲として完成した。
ミュージックビデオは、とある火曜日、ドミニオン劇場で3時間かけて撮影。同日夕、ミュージカル「タイム」の公演本番が控えていたため、撮影は短時間で完了した。ミュージカルは同月の初めから上演が始まっており、初日にはフレディも観劇に訪れている。パフォーマンス全体を完全に収められるかどうか危惧されたことから、撮影には4台のカメラを使用。その週に人気音楽テレビ番組「トップ・オブ・ザ・ポップス」で放送するため即座に編集された。シングルは同年5月6日リリース。MVは撮影に用いられたオリジナルの35ミリフィルムではなくビデオテープに記録され、オリジナル映像は貴重品保管庫行きとなった。
クラークの脳裏には、86年にアビイ・ロード・スタジオで行われたフレディのパフォーマンスが常に焼き付いていた。オリジナルバージョンは数百万枚の売り上げを達成し、彼自身の言葉を借りれば「うまくいった」が、最初のリハーサルで経験した「鳥肌が立つ」思いは、何十年もの歳月を経ても消えることがなかった。
クラークは最初のレコーディング音源、つまりフレディのボーカルとモーランのピアノのみが入っているバージョンを聴きたいと考えていた。分厚いバッキングボーカルが全く含まれていないバージョンを見つけ出そうと貴重品保管庫を捜索し、2018年春、自身のテープアーカイブの中から発見した。
「不可能を可能にする」と信じていたクラークは、この歴史的パフォーマンスが持つ莫大(ばくだい)な可能性を取り戻そうと、オリジナルのキーボード奏者モーランの参加を仰ぎ、バッキンガムシャーにある彼のスタジオで、新たにピアノトラックをレコーディング。長年復活させたいと願ってきたパフォーマンスのプロデュースに成功した。96トラックのバッキングボーカルに彩られていたバージョンを、ただ1つの、つまりフレディの1トラックボーカルのみが入ったバージョンに戻したのだ。
また、オーディオにはビジュアルが必要となったが、クラークは単に昔の映像を編集するにとどめたくはないと考えていた。手元にあったのは、前述のカメラ4台で撮影された映像のネガと、14年にクラークのドキュメンタリー番組「Glad All Over: The Dave Clark Five & Beyond」が制作された際、パインウッド・スタジオのランク・フィルム現像所に一時保管された後、戻された未現像フィルムだった。
クラークは編集者と4日間、特別な施設に閉じこもり、ネガを検証。「魔法のようなパフォーマンス……歌詞の一言一句をかみしめ、味わっていた」というフレディの姿が完璧に表現されている映像の発見と、ビデオの制作につながった。