囲碁・依田紀基九段 日本棋院への不信感訴える…不戦敗強要され「命の危険感じる精神状況」
名人4期などタイトル通算36期の実績を誇る、囲碁の依田紀基九段(53)が31日、都内で記者会見を実施。今年6月に開催された公式戦「フマキラー囲碁マスターズカップ」の準決勝で不戦敗を強要されたなどとし、所属する日本棋院の、理事長を務める小林覚九段(60)ら執行部への不信感を訴えた。
会見前にはしきりに深呼吸を繰り返し、必死に心を落ち着かせていた依田九段。不戦敗については、まず準決勝の前々日、小林理事長から「(対局場の)広島には来ない方がいい」などと対局辞退を勧められたと告白した。対局前日には広島市内で、協賛のフマキラー株式会社・大下俊明会長や小林理事長と会談。その場で不戦敗を申し渡されたが、日本棋院からは依田九段が自ら不戦敗を選んだと発表されたという。
結果としてフマキラー社は、今年限りで大会スポンサーから撤退。大会は終了となった。日本棋院の執行部からは、依田九段の不戦敗とスポンサー撤退はいずれも依田九段のツイッターによる執行部批判が原因との説明が報道各社になされた。罰則委員会も開かれ、対局停止処分の可能性も示唆されたという。
強度のストレスで「命の危険すら感じる精神状況」と主張し、「対局中止などの処分は、まったくあり得ない!」と突然声を荒げる場面もあるなど、限界直前とすら感じさせた依田九段。今年2月には脳梗塞を発症しながら、入院6日目に対局を行おうとしたといい、「命がけで対局場に向かおうとした人間が、自ら対局を辞退するなどありえるでしょうか」と、不戦敗についての発表を糾弾した。
依田九段は、自身が行ったツイッターでの批判について、詳細な内容は明かさなかったが、「感情的に書いてしまった。品性を欠いた」と改めて謝罪。その上で「日本棋院の公益財団法人としての公平性、透明性、風通しの良さを求めた」とし、マスターズカップおよびフマキラー社には言及していないことを明言し、対局停止処分は論理の飛躍だと指摘した。また、不戦敗の決定が組織ではなく理事長判断で行われたことも強く批判。日本棋院としての説明責任も、厳しく追及した。
9月の棋士総会でも不満を訴えたが、「事実に反する」として、議事録にも残されなかったという。また、処分を受ける可能性があるとして、コンプライアンス上の問題で自著の出版が頓挫する事態も。依田九段は「私はいわば、蛇の生殺し状況にさらされております。本業である対局に集中できないばかりか、命の危険すら感じる精神状況となっています」と、表情をゆがめながら言葉を絞り出した。
会見を受け、日本棋院側はデイリースポーツの取材に「継続調査中の事案であり、現時点でのコメントは控えたい」と回答した。仲邑菫初段(10)や史上最年少の芝野虎丸新名人(19)ら、相次ぐ新星の誕生に沸く囲碁界。その盛り上がりに水を差しかねない、思わぬ騒動が巻き起こった。