伊藤銀次インタビュー(後)2年ぶりの新作を発表「目指してるものはみんなの歌」

 シンガー・ソングライターの伊藤銀次(69)が昨年12月、ハーフアルバム「RAINBOW CHASER」をリリースした。「オレたちひょうきん族」のテーマ曲「ダウンタウン」の作詞家、「笑っていいとも!」のテーマ曲「ウキウキWatching」の作曲家で、プロデューサーとしてはウルフルズをスターダムにのし上げるなど、Jポップのキーパーソンとして活躍してきた伊藤が新作を語るインタビュー、その後編。

  ◇  ◇

 1曲目「誰もがきっと~思い出に守られて~」からは、人生経験を積んだ人の思いが伝わってくる。「思い出が心に潤いを与えてくれたり、つらい時に、友達が昔言ってた、バカやったこととか思い出して、またやる気になってみたり。大切な思い出が自分を守ってくれてる」という「不思議な結論」にたどり着いたゆえだという。

 「色んな思い出が守ってくれてるから前へ歩いて行ける。生きるってことはそういうことなのかなみたいな、人生観みたいな重たいものじゃないけど、日々感じてることを、特にこの年齢で思ったことを歌にして」

 3~5曲目の「Try to Remember」、「愛をつかまえて」、「生まれ変わっても」は、伊藤らしいロマンチックなラブソングだ。

 「激しく愛し合って一緒になるんだけど、現実にもまれてるうちに意思が疎通できなくなっていくのが気になって。気持ちの通い方に興味があってね。疑ったり、信じたいのに信じなくなっちゃう気持ちみたいなのが、自分の水脈の中にあるんじゃないですかね」

 歳月をへたカップルを歌っているように思える曲もある。

 「『Try to Remember』の中に書かれてる2人は、結婚して10年以内の男女にもあることだと思う。『生まれ変わっても』も、長く連れ添って老い先が見えてきた時に『君に会えて良かった、もう一度来世で会いたい』って話になるけど、付き合って10年以内にもあることだと思う。あまりポップスのテーマとしては良くない、あまり採り上げないけど、死ですよね。そこに何か一つの見解を持つとしたら、毎日を生きてるって実感しかない。積み重ねてくと完成があるわけじゃなくて、最後にはゼロになっちゃうわけですから。

 友達ってのは何かっていったら、心を分け合える人ですね。同じではないけども、気持ちを通わせたりする人がいて、一緒に生きてるって実感を持って生きていける。これしかないのかなと思って。多くを人生に求めてもないし、かといって人生がつまんないもんかって言ったらつまんないもんでもない」

 このような人生哲学を「ただ歌にすると、いかにも伊藤銀次の『マイ・ウェイ』みたいな感じになっちゃうので、それは絶対に嫌」な伊藤。「あくまで軽やかで聴いて楽しくなったり心がウキウキしたりするような音楽っていうのを自分の形にしてるので、そういったものがメロディーや詞から自然に聴こえてきて、共感してもらえたらなとは、いつも気をつけて」おり、本作も伊藤銀次ならではのウキウキミュージックに昇華されている。

 ポップスの歌詞についての考え方を、伊藤はビートルズや師匠の故大滝詠一さんから説明してみせた。

 「なんでビートルズ好きになったかっていうと、(英詞の)意味分かんないんだけど、響きがたまらなく気持ちいい。自分自身は歌を歌う人なんだ。大滝(詠一)さんもそうなんですけれども。大滝さんは歌を歌う人なので、詞を書いて歌う時に、唇を通る時に気持ちいいか悪いかみたいな部分で決めちゃう。歌ってみると大滝さんの作った詞ってものすごく気持ちいい。ジョン・レノンの歌に似てる。大滝さんになんでひかれたかって考えるとそれかな。日本語を英語の心地よさでどういうふうに歌えるか。歌の詞にしかないマジック。今回の詞はそういうのを目指して書きたかった」

 普遍性にも注意を払っている。

 「言い過ぎないこと。ディテールまで書きすぎると、ディテールが違うと『僕の歌じゃない』とみんな思っちゃいますから、大まかなシチュエーションを歌ってあげたら、あとはそれぞれの人が自分の感覚で、自分の過去と勝手に結びつけて『俺のことを歌ってくれてるな』とか思ってくれるんじゃないか」

 このような考えや伊藤ならではのポップなサウンドで分かる通り、「この(伊藤銀次の)テイストをものすごく好いてくれた人たちに絶対買ってもらう」、「Jポップ的な考え方を全部やめよう」という方針で制作したアルバムではあるが、ファン以外にも開かれたアルバムでもある。

 伊藤は「目指してるものはみんなの歌。みんなで歌ってもらったり聴いてもらったらうれしい」と、多くの耳に届くことを願っている。(終わり)

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