【悼む】大林宣彦監督の意外で強烈だった戦争体験
「転校生」「時をかける少女」「さびしんぼう」など、出身地の広島県尾道市を舞台とした青春映画で知られる映画監督の大林宣彦(おおばやし・のぶひこ)さんが10日午後7時23分、肺がんのため東京都内の自宅で死去した。82歳だった。大林監督にインタビューしたデイリースポーツの元映画担当記者が、当時を振り返った。
◇ ◇
大林監督にインタビューしたのは2017年12月3日、映画「花筐/HANAGATAMI」の公開直前だった。同作のクランクイン前日に大林監督が肺がんで余命宣告を受けていたということもあり、「映画にかこつけて病気の話を聞こう」という下心たっぷりだったが、最初に映画製作の意図を尋ねると、延々40分、体験談もまじえて戦争への思いを伝えられた。事前に関係者から「時間は長めに取っておいてください」と言われていたことに納得。当初の狙いははぐらかされ、とにかく圧倒された。
中でも印象的だったのが、終戦直後の母とのエピソード。軍国少年だった大林監督は、終戦後「誰がぼくを殺してくれるんだろう」と考えていた。ある日、母に呼ばれて、ともに入浴。母は髪を切って父のスーツを着て、大林少年は三つぞろえを着させられ、寝室に連れて行かれた。寝室には座布団が2枚、その間には短刀が置いてあり、「母ちゃんがぼくを殺してくれるのか、それなら気持ちよく死ねるな」と安心したという。
結局、寝室で母と話をするうち寝入ってしまい、その後の記憶は途切れているそうだが、強烈な印象だった。ファンタジックな大林作品のベースに戦争体験があるのは意外だった。語り口、表情はおだやかそのものだっただけに、生々しい内容とのギャップに驚かされた。
トータルで約2時間。体調が万全でない中での取材対応には感謝しかない。戦争がなくならないことを憂いながら、「平和という大うそを信じて、映画をハッピーエンドでくくれば、少しずつでも世の中がハッピーな方向に進んでいくのでは」と語っていた大林監督。その思いが少しでも広がることを願いたい。(デイリースポーツ元映画担当・澤田英延)