南里沙 新作でジャズに初挑戦「ジャンルの壁を感じさせない」魅力
クロマチックハーモニカ奏者の南里沙(33)が今春、ニューアルバム「RISA Plays JAZZ」をリリースした。オリジナルアルバムと並行して歌謡曲、映画音楽、童謡・唱歌、クラシックと続けてきた「RISA Plays」シリーズの最新作でジャズに挑戦、新境地を開いた南が、クロマチックハーモニカという楽器の魅力を語る。
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神戸女学院大学音楽科オーボエ専攻を卒業したクラシック畑の南がクロマチックハーモニカと出会ったのは、大学3年生の春。トゥーツ・シールマンスやスティーヴィー・ワンダーの演奏を知り、「ハーモニカってこういうメロディーを奏でるんだ!」という衝撃と感動を覚えた。
「一つの楽器として素晴らしい」とハーモニカを始め、当初はオーボエとハーモニカを「持ち替えてできたらかっこいい」と考えていたが、「演奏すればするほど、練習すればするほど、楽器の深さ、魅力がたくさんあることが分かり、オーボエと両方一緒に極めていくのが難しいと感じました」。
大学卒業の節目に「私がこの楽器を広めなかったら、この楽器が知られぬまま終わるかもしれない」という「使命みたいなもの」を感じ、クロマチックハーモニカを選んだ。
クロマチックハーモニカとは、どういうハーモニカなのか。子供の頃に吹いていた人も多いであろうハーモニカは「教育用のシンプルな」物。シンガー・ソングライターの長渕剛や音楽デュオのゆずが使用するのは「テンホールズと言われる」ブルースハープだ。日本で最も使われているのは複音ハーモニカで、「両手を広げてやっと持てる」大きな種類もあるという。
クロマチックハーモニカの特徴は「右側にボタンが付いていて、ピアノの黒鍵の音、半音階(クロマチック)が出せる」こと。
南は「ピアノの白鍵、黒鍵全ての音が鳴らせる、メロディーに特化したハーモニカ」、「クラシックもジャズもポップスも演歌も童謡も歌謡曲も映画音楽も演奏できる。ジャンルの壁を感じさせない楽器。切ない音色、力強い音色、奏者の息づかいによってそれを表現できるのも魅力」だと説明する。
「1曲1曲、その楽曲の個性をクロマチックハーモニカで表現していく作業が、私にとってのクロマチックハーモニカの面白さ」という南は、「ハーモニカの魅力を伝えるため、ジャンルにこだわることなく奏でていきたい」と、「Plays」シリーズでさまざまなジャンルの音楽を奏でてきた。
シリーズ開始当初から、ジャズは「必ず入れたい」ジャンルで、今作は「満を持したアルバム」だという。
収録したのは「The Shadow of Your Smile(いそしぎ)」や「Autumn Leaves(枯葉)」、「Stella by Starlight(星影のステラ)」、「The Way You Look Tonight(今宵の君は)」など、スタンダードばかり10曲。「非常にたくさんの名曲がジャズにはあるので、どの曲を選ぶかすごく悩んでしまいました。その中でも(ジャズの)第1弾として出すなら、メロディーの美しい曲、印象に残るメロディーがあることを第一に考えることにしました」と選曲の基準を明かす。
ジャズとの出会いは、ハーモニカとの出会いでもあるシールマンス。彼のサウンドやソロに「憧れた部分がある」という。「クラシックとはリズムの取り方も音の選び方もハーモニーの組み立ても全く違うもの。最初は戸惑うことが多かったけど、違いが分かれば分かるほど、自由さ、フリーな部分が分かるようになった」とジャズの魅力を語り、「10年後20年後、どういう音色を奏でるのか楽しみ」だと期待した。
「夜のしじまに聴いていただきたい、そんな雰囲気のあるアルバム。いいアルバムに仕上がったと思います。出来上がって自分で聴いた時に、ホッと落ち着けるような…。もしかしたらハーモニカの魅力かもしれません。皆さんの色んなシチュエーションに、ふと寄り添える音色を持っている」と、仕上がりに自信を見せた南。
本来ならリリースを受けてライブも活発に行うはずが、台湾公演も含む7月までの公演は全て中止・見合わせとなり、8月の中国公演も延期された。
「ライブしたいですね。『こんなに私、演奏すること、ステージに立つことが好きだったのか』って毎日、感じています。ライブが通常通りできていた日々はホントに幸せだったと感じています。こんなにも皆さんのもとに行きたいのに行けない日が来るとは。こんな状況になるのはすごくさみしい」と、ライブの再開を待ち望んでいる。