藤井新棋聖 史上最年少17歳11カ月タイトル「シリーズ通して成長できた」
歴史を作った。将棋の藤井聡太七段(17)が渡辺明三冠(36=棋聖、棋王、王将)に挑戦した第91期ヒューリック杯棋聖戦五番勝負第4局が16日、大阪市の関西将棋会館で指され、2勝1敗で迎えた藤井七段が110手で勝利。今月19日に18歳の誕生日を迎える藤井新棋聖は、史上最年少17歳11カ月でのタイトル獲得となった。従来の記録は1990年の第56期棋聖戦で屋敷伸之九段(48)が達成した18歳6カ月で、30年ぶりの更新。新時代の幕が開いた。
手も震わせず、顔色も変えず、あくまで淡々と金字塔を打ち立てた。渡辺三冠が「負けました」と頭を下げた瞬間、藤井新棋聖は「ありがとうございました」と自らも頭を下げ、歴史的な一局を締めくくった。
最年少記録の更新には「意識することはなかったんですが、獲得できたというのは非常にうれしい結果」と笑顔。実感はまだないとしつつ、「勉強になるところが非常に多かった。シリーズを通して成長することができたと思います」と番勝負を振り返った。
快勝した第2局と同じく、相矢倉戦に。中盤で渡辺三冠の研究手筋が披露され、ペースを奪われた。だが、木村一基王位(47)に大逆転勝利を収めた王位戦七番勝負第2局と同じく、劣勢になるほど底力を発揮。この日もリードを広げさせないまま終盤を迎えた。
そして渡辺三冠が5三桂不成と王手をかけたのが、わずかな緩手。同桂と取って逆転すると、一度も形勢を損ねることなく、最後も渡辺三冠の連発王手を余裕を持ってかわし、勝利をつかみ取った。
本年度は強敵ばかりを相手に14勝2敗という驚異的な成績。師匠の杉本昌隆八段(51)は、さらに成長した要因として、昨年11月の王将戦挑戦者決定リーグ6回戦・広瀬章人八段(33)戦を挙げた。終盤力に絶対の自信を持つ藤井新棋聖が、勝利目前で王手をかわし損ねてまさかのトン死。杉本八段によると、この敗戦で「明らかに変わったと思う」。形勢が良ければ堅実に、悪ければ少しでも粘るという、常に最善の一手を追求する姿勢にさらに磨きがかかった。
殺人的な過密スケジュールを生んだ新型コロナウイルス感染拡大までも、プラスに変えた。通学も対局もなく、増えた在宅の時間に過去の自分の将棋を徹底的に研究。逆境も味方につける“本物の強さ”で、堂々と一つ目の頂に立った。
棋聖として初めて臨む王位戦第3局は、8月4、5日に神戸市で指される。「責任のある立場になりますので、より一層精進して、いい将棋を指せるように頑張りたい」と藤井新棋聖。新時代を担う若き天才は、早くも風格すら漂わせていた。