法政大総長 この問題を座視しては学問の自由侵される…菅首相の母校が任命拒否に

 田中優子法政大学総長が5日、同大学ホームページに「総長メッセージ 日本学術会議会員任命拒否に関して」と題した見解を発表した。田中氏は「任命拒否された研究者は本学の教員ではありませんが、この問題を座視するならば、いずれは本学の教員の学問の自由も侵されることになります」と懸念を表した。菅義偉首相は同大学出身。

 田中氏は「日本学術会議が新会員として推薦した105名の研究者のうち6名が、内閣総理大臣により任命されなかったことが明らかになりました。日本学術会議は10月2日に総会を開き、任命しなかった理由の開示と、6名を改めて任命するよう求める要望書を10月3日、内閣総理大臣に提出しました」と事の経緯を概括。

 続けて学術会議の設立について触れ「日本学術会議は、戦時下における科学者の戦争協力への反省から、『科学が文化国家の基礎であるという確信に立って、科学者の総意の下に、わが国の平和的復興、人類社会の福祉に貢献し、世界の学界と提携して学術の進歩に寄与する』(日本学術会議法前文)ことを使命として設立されました」と記した。

 田中氏は「内閣総理大臣の所轄でありながら、『独立して』(日本学術会議法第3条)職務を行う機関であり、その独立性、自律性を日本政府および歴代の首相も認めてきました。現在、日本学術会議の会員は、ノーベル物理学賞受賞者である現会長はじめ、各分野における国内でもっともすぐれた研究者であり、学術の発展において大きな役割を果たしています。内閣総理大臣が研究の『質』によって任命判断をするのは不可能です」と指摘。

 「また、日本国憲法は、その研究内容にかかわりなく学問の自由を保障しています。学術研究は政府から自律していることによって多様な角度から真理を追究することが可能となり、その発展につながるからであり、それがひいては社会全体の利益につながるからです。したがってこの任命拒否は、憲法23条が保障する学問の自由に違反する行為であり、全国の大学および研究機関にとって、極めて大きな問題であるとともに、最終的には国民の利益をそこなうものです」と危惧。

 さらに田中氏は「しかも、学術会議法の改正時に、政府は『推薦制は形だけの推薦制であって、学会の方から推薦いただいたものは拒否しない』と国会で答弁しており、その時の説明を一方的に反故にするものです。さらに、この任命拒否については理由が示されておらず、行政に不可欠な説明責任を果たしておりません」と菅首相が説明責任をまっとうしていないことを批判。

 「本学は2018年5月16日、国会議員によって本学の研究者になされた、検証や根拠の提示のない非難、恫喝や圧力と受け取れる言動に対し、『データを集め、分析と検証を経て、積極的にその知見を表明し、世論の深化や社会の問題解決に寄与することは、研究者たるものの責任』であること、それに対し、『適切な反証なく圧力によって研究者のデータや言論をねじふせるようなことがあれば、断じてそれを許してはなりません』との声明を出しました。そして『互いの自由を認めあい、十全に貢献をなしうる闊達な言論・表現空間を、これからもつくり続けます』と、総長メッセージで約束いたしました。その約束を守るために、この問題を見過ごすことはできません」と厳しい認識を示した。

 「任命拒否された研究者は本学の教員ではありませんが、この問題を座視するならば、いずれは本学の教員の学問の自由も侵されることになります。また、研究者の研究内容がたとえ私の考えと異なり対立するものであっても、学問の自由を守るために、私は同じ声明を出します。今回の任命拒否の理由は明らかにされていませんが、もし研究内容によって学問の自由を保障しあるいは侵害する、といった公正を欠く行為があったのだとしたら、断じて許してはなりません」とし、「このメッセージに留まらず、大学人、学術関係者はもとより、幅広い国内外のネットワークと連携し、今回の出来事の問題性を問い続けていきます」と長期的に問題視する姿勢を示した。

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