河野啓三「またステージで演奏できるように」…脳出血後遺症でT-SQUARE退団

 「Crème de la Crème」制作時、メンバーから花束を贈られた河野啓三(手前)
2枚

日本を代表するポップ・インストゥルメンタル・バンド「T-SQUARE」を20年にわたり支え、“音楽総指揮官”的存在だったキーボードの河野啓三(49)が、8月末をもって退団した。T-SQUAREは10月に異例の送別アルバムとなる3枚組「Crème de la Crème」をリリース。最大限の愛と友情で送り出された河野が、愛するバンドに別れを告げる決断をした理由や、現在の心境を明かした。

 退団を決めた理由は、昨年2月6日に発症した脳出血の後遺症が「思いの外重度」だったためだ。「左足、左手は、運動機能としては著しく落ちている、なかなか回復してこない状態」だという。

 昨年12月にライブ復帰し、今年6月に発表したニューアルバム「AI FACTORY」ではメンバーのサポートも受けて作曲、演奏で参加した。メンバーの気遣いに感謝する河野は「できることもたくさんある」としつつ、「それだけじゃないことがたくさんあって。自分のこととバンドの将来のことを考えて、最善の選択としてグループを離れることを決断した」と語る。

 「SQUAREは個々の楽器の演奏を魅せていく、その演奏能力が売りな部分もある訳なんですけど、自分の今の状況は、演奏能力として100%ではない。あくまでグループですから、自分がいるっていうことは非常に足を引っ張ると思う」と、現状を厳しく見つめての決断だった。

 退団の意志は昨年8月23日の退院より前、「去年春ぐらい」には固めていた。リーダー安藤正容(65)は「強く反対して『何とかみんなでやっていこう』ということをかなりおっしゃっていた」と慰留。河野も一度は踏みとどまったが、回復の遅れで「事故が起こってしまってからでは遅いし、事故が起きるのが分かっている以上は、自分が言わなければ」と退団を決めた。

 送別アルバムは珍しく、「身に余るお話をいただけて非常に光栄」と感謝する。ディスク1は「TRUTH」などバンドの代表曲を8月に新規録音したもの。同2はバンドにおける河野作品とソロから選曲した河野啓三WORKS。同3はドラムス坂東慧(37)によるレコーディングドキュメントDVD「Thanks a million!河野啓三」となっている。

 ディスク1は在籍最後のレコーディングで、「いつも通りで。全員が演奏し慣れている曲ですので、ものすごくリラックスして和気あいあいと楽しいレコーディングセッション。どの日も楽しい時間だった」と振り返る。

 「最大の見どころ」と言うディスク3は「レコーディングスタジオでどんなことが行われているか、わりとリアルに映し出されている部分が今まで以上にあって」、「リズム録りの3日間っていうのがすごく穏やかで楽しいものだったのが、映像を見ると一目瞭然」と、メンバーの素顔が活写されている。

 退団はしても、今後もT-SQUAREの事務所に所属。新作への曲提供も依頼されており、個人への仕事も来ているという。

 「チャンスをいただける限りは、頑張って作曲提供していきたい。いつかゲストでステージに上がれるように、リハビリを重ねて、ステージでまた演奏できるように準備もしていきたい」

 こう意気込む河野は「音楽を続けるっていう意味においては、色んなやり方はいくらでも考えられると思うので。音楽で何かを表現したりであるとかっていう部分は変わらずに持っているので、いいアイデアが思いつけばやっていけるんじゃないかなって。そこは気長に、何かあるんじゃないかなっていう、それぐらいに考えていますね」とほほ笑んだ。

 バンドも12月25~27日に年末恒例の神戸チキンジョージ公演(25日はTHE SQUARE Reunion)、同30、31日に東京・日本橋三井ホール公演が決定。共に試練を希望に変え、新たなステージに向かう。

   ◇   ◇

 ◆河野啓三(かわの・けいぞう) 1971年2月4日生まれ、東京都出身。6歳の頃にエレクトーン、高校の頃に兄の影響でピアノ、キーボードを始め、高校卒業後からプロとして活動。元THE SQUAREの田中豊雪の紹介で2000年秋からT-SQUAREのサポートメンバーに。演奏、作編曲、プログラミングなど多岐にわたって貢献し04年末、正式加入。11年、ソロアルバム「DREAMS」発表。

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