西岡徳馬 下積み20年が原動力 赤名リカと不倫の部長役「東ラブ」出演が転機

 ダンディーな風貌から深みのある演技を繰り出す名優・西岡徳馬(74)が今年、デビュー50周年を迎えた。長い下積みを経て、国民的人気ドラマで大ブレーク。バラエティー番組にも積極的に出演し、今月25日にはシングル「だろ?」を発売し、74歳にして歌手デビューも果たした。コロナ禍で苦しむ演劇業界にあっても、ひたすら前に進み続ける西岡を突き動かす原動力、そして持ち続けている信念とは-。

 記念すべきデビュー50周年は、コロナ禍という未曽有の苦境と重なった。敬愛する作家の故・三島由紀夫の没後50年に合わせて映画の製作も予定していたが、「宙に浮いちゃった」という。それでも「ようやくいろいろできるようになってきて、今は毎日休みがないよ」と笑い飛ばした。

 1970年、文学座に入団。当時は目立つ存在ではなかった。

 「僕は40過ぎてから売れた。売れてなかった時期があったから、今があるんだと思う。20代でいきなり売れたら、今はなかった」。

 その真意をこう説明する。

 「人間って、いろんなものが内在してて、俳優がいろんな役やる場合は、内在してるものを引っ張り出さなきゃいけない。自分の中にないものは、絶対に出てこないんですよ。俺には狂気っぽいところもあるし、普通のところもあるし、コミカルなところもあるから、それを出せばいい。それが下積みの20年の間にできていた」

 転機になったのは、1991年。フジテレビ系ドラマ「東京ラブストーリー」の出演。鈴木保奈美(54)演じるヒロイン・赤名リカの上司で、リカと不倫関係にあった部長・和賀夏樹役を好演し、注目を集めた。

 デビュー21年目での大抜擢。その経緯は意外なものだった。

 「杉浦直樹さんに連れて行かれた飲み屋で、『役者は全国区にならなきゃいかん。テレビに出なきゃ』って言われた。ちょうど、渋谷のパルコ劇場で『幕末純情伝』をやっていて、それを見てもらおうと思ってね。3000円のチケットを100人分自腹で買って、テレビの関係者に配って…。で、フジテレビのプロデューサーが見に来て、すぐに決まった」。

 思い切った行動が、大きな運命を呼び込んだ。同作は社会現象となるほどの高視聴率に。脚本の変更まで余儀なくされた。原作では、リカは和賀の子どもを出産するが、ドラマではその設定が削られた。

 「小学生まで見るようになったから…。まだ『不倫は文化だ』とか、石田(純一)が言ってないころだったし」

 今では、日本テレビ系「笑ってはいけない」シリーズなど、バラエティーにも進出する。

 「『なんでそんな切り替えできんの?』って言われるけど、『そこへ行くとそれ』なんだよね。芝居の稽古中にバラエティーを撮ったりするときも、そこへ行くとスッと入れる。これは特技だね」と胸を張った。

 そして今回は、歌手という新たな挑戦。

 「ずっと友達とかにはやれやれって言われてきたけど、照れくさくて断ってた。でも、50年だから、これを理由にやってみようと。僕の同年代は、集まって話すと孫がどうだとか、病気の話とか。人間は絶対死ぬんだからさ、だったらギリギリまで遊んでいけばいいじゃん、という思いの歌です」と笑った。

 紆余曲折の50周年から、まもなく51年目に突入する。「肉体が衰えて前のめりに倒れるまで、できる限りは何でもやる。これからは、人がやらせたいと思って持ってくる仕事を大切にしたい」

 74歳を突き動かす情熱に衰えはない。

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