俳優?歌手?職業・北村匠海 オーディション100敗の男がたどり着いた現在地
俳優?歌手?昨年末の2020ブレーク俳優ランキングで1位に輝いた北村匠海(23)は、どんどん枠にはまらない存在になっている。映画、ドラマで存在感を発揮する一方、ボーカルを務めるDISH//の「猫」が動画再生1億回以上と大ヒット。8歳で芸能界入りし、当初はオーディション100敗の劣等生だった男がたどり着いた現在地とは-。ジャンルを越境して活躍する原点に迫った。
ドラマ、映画、音楽番組…どこを見渡しても北村がいる。「自分に肩書を付けるなら?」。率直に聞いた。
少し考えて北村は「肩書を付けるなら何なんですかね?ざっくり『いろいろやってる人』と思われるくらいがちょうど良かったりします」と笑った。よく「本業は何?」と聞かれるという。
「『本業?』って僕の中でしっくりきていなくて、だとしたら役者でも音楽でもない。自分の人生を楽しく生きることが僕の本業。それで伝えられるものがあるのかなと思っています。いくつになっても1つの道を歩み続けられないな、って」
昨年のブレーク俳優ランキング1位。主演級俳優がアーティストとしてもヒットを飛ばす姿は鮮烈だった。ブレークを認められた昨年を「人生観が変わった1年。非現実的で実感がない不思議な1年でした」と振り返る。
コロナ禍で久しぶりに長いオフを経験したことが大きかった。
「8歳からこの世界にいて、この世界しか経験してないし、自分はどんな人生を歩んでいくんだろうと考えました。夢がいくつもいくつも出てきて、自分の人生を豊かにする選択肢が見えてきて、今23歳。足踏みしているように見えて、今はその地団駄(じだんだ)で自分の足元を固める思いでいます」
バンドマンとして作詞作曲し、カメラマンの仕事も行い、いつか映画を撮りたいと2年前から公言している。自粛期間には「ネガティブに考えてしまい、すごく落ち込んだときもあった」というが、立ち直れたのはDISH//のメンバーがいたからだと明かす。
今後について連絡を取り合い、高い熱量を共有。売れない時代を共に乗り越えてきた仲間の、変わらぬファイティングポーズがうれしかった。
「17歳で武道館に立ちましたけど、夢をかなえてしまって、ぽっかりと心に穴が開いてしまった。結果、翌年は(武道館に)約半分のお客さんしかいなかった。ウソでしょ?みたいな大事件です。あれがあったから今につながっていると思いますし、全てムダじゃなかった。今一番面白い時期だと思います」
8歳でスカウトされ、当初はオーディション100敗。「受かる受からないの概念も分からなかった」と苦笑いする。
「『何のためにこれやってるんだろう?妙に緊張するし何?』って感じでした。芦田愛菜ちゃんのような天才子役の演技派がいて、少し上の世代に神木隆之介さんがいる。自分は日の目も浴びない。でも、だんだん芝居が楽しいなという概念が生まれてきたのは小学校5年生でした」
2008年公開の映画「ブタがいた教室」が転機。「台本もない映画だったんです。そこでお芝居って面白いなと思えて、第2の転機が『鈴木先生』。役者として成長を感じたターニングポイントは、この二つかもしれないです」。11年放送のドラマ「鈴木先生」で北村はクラスの優等生・出水正を演じた。
「物語の中心になって、第2話の主演みたいなポジションをやらせてもらったんです。当時、13歳の自分は中学生なりに責任を感じながら『2話の視聴率どうなるんだろう』とか考えて。『2話が大事だからな』って」
共演者には土屋太鳳(26)、松岡茉優(26)ら金の卵たちが集結していた。「同世代との出会いが自分を押し進めてくれた気がします。みんなで集まって、いっぱしに演技論を話していたんです。芝居はナチュラル派なのか、大きく表現することが正解なのか、みたいな議論を。今思えば恥ずかしいですけど」と照れ笑いする。
「僕らの世代は肩を組んでるイメージがすごくあります。小栗旬さんたちと話していると、わりとバチバチだったと聞くんですね。僕らは『とにかく面白い世代になって、一緒に頑張ろう』みたいな感覚があります」
同世代と共鳴し合いながらたどり着いた現在地。どのような未来図を描いているのか聞くと、意外な答えが返ってきた。
「最終的には、ゆっくりと、願わくば結婚した人とカレー屋さんを開きたいです」
ここにも同世代の影響があるという。
「同じ年の元ラッパー・ぼくのりりっくのぼうよみが、引退して、さつまいも屋さんをやってるんですね。『固執する必要はないんだ。今あることで自分の人生を固める必要はないんだ』って、すごい刺激を受けて。しかも、そのさつまいも、めっちゃ売れてるらしいんですよ」
型にはまらず、自由で、軽やか。ジャンルに縛られない、職業・北村匠海な生き方から目が離せない。
◆北村匠海(きたむら・たくみ)1997年11月3日生まれ、東京都出身。2006年から現在の事務所に所属。08年、映画「DIVERSE!」で俳優デビュー。15~18年、DISH//として日本武道館公演を行った。主な出演作は映画「君の膵臓をたべたい」、ドラマ「おカネの切れ目が恋のはじまり」など。2月24日にDISH//の最新アルバム「X」をリリースしたばかり。今月16日に初のソロカレンダーを発売する。