橋田壽賀子さん死去 ホームドラマの原点に戦争

 日本の家族の姿を描き続け、「おしん」、「渡る世間は鬼ばかり」などの国民的ドラマを生み出した脚本家の橋田壽賀子(はしだ・すがこ、本名岩崎壽賀子=いわさき・すがこ)さんが4日午前9時13分、急性リンパ腫のため静岡県熱海市の自宅で死去した。95歳。ソウル生まれ。故人の遺志により通夜、告別式は行わず、5日に荼毘(だび)に付された。お別れの会なども遺志に従い行わない。

 橋田作品の底には、人間の幸せとは何か、家族の絆とはどんなものかという問いが常にあった。橋田さんは庶民、特に女性の立場を大切にした。

 「おしん」は日本人だけでなく、海を越えて多くの人々の琴線に触れた。石井ふく子プロデューサーとTBSでホームドラマを量産。そこで培った人間を描く技が実を結んだ。

 俳優たちが分量に悲鳴を上げた「長ぜりふ」も、登場人物の心情を視聴者に的確に届けるための確信犯的なテクニック。「主婦の家事の手を止めないよう、聞けば分かるようにしました」と語っていた。各時代を生きた人々の息遣いを巧みに織り込む術も「おしん」で生きた。明治、大正、昭和を生きた女性の一代記を「辛抱」というキーワードで貫き、貧困や戦争、戦後の繁栄を盛り込んだ。

 橋田さんは共同通信の取材に「私のテーマはずっと戦争と平和だった」、「戦争を体験した私には、高度成長が怖かった。身の丈にあった幸せがあることを伝えたかった」と語った。青春時代に東京と大阪で空襲を経験した橋田さんは「おしん」、「百年の物語」、「ハルとナツ 届かなかった手紙」などで、戦争にほんろうされる庶民の姿を描いた。

 家族を描いた「渡鬼」は橋田ワールドの集大成。性別、世代を超え人が人として生きることの楽しみ、悲しみ、怒りを率直なせりふで語らせ、脚本家として自在の域に達した。

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