田村正和さんはどこまでも格好良かった 二枚目、三枚目、プレーボーイ…
愁いを帯びたマスクに豊かな長髪。年齢を重ねても変わらぬダンディーさで、いつもテレビの中心にいた。4月3日に亡くなった俳優田村正和さんは、時代劇からコメディーまでの幅広いジャンルを、持ち味を生かして演じることが許された「スター」だった。
当たり役だった時代劇シリーズの完結作「眠狂四郎 The Final」の撮影時に東映京都撮影所で話を聞いた。原作者・柴田錬三郎に「田村にぜひやらせたい」と指名され、20代から演じてきた美剣士役。18年ぶりに引き受け、撮影の合間に着流し姿で現れた。
「おやじがつくったこの撮影所の近くで生まれた。温かいものが感じられる」。本人はリラックスした雰囲気で話したが、創設者で往年の大スター阪東妻三郎の三男はさすがの存在感で、スタッフたちの緊張がこちらにまで伝わってきた。
木下恵介監督の映画「永遠の人」で本格デビュー。「舞台はお客さんがいるから嫌。映画は時間がかかるし、舞台あいさつがあるから嫌だ。テレビはそれがない」。仕事のやり方が性に合っていたといい、やがてテレビを中心に活躍を広げていった。
「眠狂四郎」や「鳴門秘帖」、「若さま侍捕物帳」などで正統派の二枚目、ニヒルなプレーボーイのイメージを確立。「役を固めていた僕をコメディーの世界に連れ出してくれた」と振り返るドラマ「うちの子にかぎって…」が転機となり、その後も「パパはニュースキャスター」などで、さえない父親役といった三枚目も好演した。
その集大成とも言えるのが、ドラマ「古畑任三郎」(三谷幸喜さん脚本)で演じたキャラクターだ。ニヒルさとコミカルさが絶妙に合わさり、多くの芸能人に物まねされるなど広く愛された。「自分にあんな芝居ができるなんてこれっぽっちも考えていなかったのを見つけ出し、新しい自分を引き出してくれた」。人と作品に恵まれた俳優人生だった。
最後の作品となった「眠狂四郎 The Final」。長年演じたシリーズが完結するとあって、報道陣から寂しくないかと問われると、「現代劇も時代劇も十分やった。やりたいもの、できるものは、やり尽くしたような気がする」と応じた。
取材が終わり撮影所を出る際、スタジオに向かう田村さんの姿が目に入った。すらりとした着流しの後ろ姿がその風景によくなじみ、どこまでも格好良かった。(辻将邦・共同通信記者)