真鍋淑郎氏にノーベル物理学賞 日本人12人目 地球温暖化研究が高く評価
スウェーデンの王立科学アカデミーは5日、2021年のノーベル物理学賞を、真鍋淑郎・米プリンストン大上席研究員(90)=愛媛県出身、米国籍=ら3氏に授与すると発表した。真鍋氏は大気と海洋の循環を考慮した気候変動のモデルを開発。二酸化炭素などの温室効果ガスに着目し、地球温暖化の予測に関する先駆的な研究を続けた業績が高く評価された。日本人受賞者(米国籍含む)は28人目。19年化学賞の吉野彰旭化成名誉フェロー(73)以来で、物理学賞は15年の梶田隆章東京大卓越教授(62)以来12人目。
授賞理由は「真鍋氏は、大気中の二酸化炭素(CO2)濃度の上昇が、どのようにして地球表面の温度上昇をもたらすかを解き明かした。1960年代には、気候変動の物理モデルの開発をリードし、現在の気候変動予測の基礎を築いた。3人は、複雑な物理システムの理解に画期的な貢献をした」というもの。
米国在住の真鍋氏はNHK総合「ニュース9」の取材に「笑った方がいいかな?」と白い歯を見せると「もうビックリ。(物理学賞の対象は)普通は純粋な物理ですけど、気候変動でもらうとは」と驚きを明かした。
受賞は世界的な気候変動と「関係あるんじゃないですか」とし、「こういうテーマにノーベル賞が出たのはないですよ。だから非常に光栄。好奇心がドライブになって始めた研究なんですけど、こういうことになるとは夢にも思っていなかった」と喜んだ。
50年代から気象に関する研究に従事。大気の流れと海洋の循環を組み合わせ、長期的な気候の変化をコンピューター上でシミュレーションする「大気・海洋結合モデル」を開発した。
89年に発表した論文では、このモデルを使い、今後70年間の気候の変化を予測。温室効果ガスの排出量が年間1%ずつ増加した場合、特に北半球の高緯度地域で温暖化が進むと結論付けた。この予測は、後の観測でおおむね正しいことが裏付けられている。
気候変動に関する政府間パネル(IPCC)が90年に発行した第1次評価報告書の執筆者にもなった。
他の2人はドイツのマックス・プランク気象学研究所のクラウス・ハッセルマン教授(89)とイタリア・ローマ大のジョルジョ・パリージ教授(73)。ハッセルマン氏は自然現象や人間の活動が気候に与える影響を正確に把握する手法を開発。パリージ氏は、数学や生物学などのさまざまな分野に適用可能な複雑系のパターンを発見した。
授賞式は新型コロナウイルスの流行を考慮し、昨年に続きオンラインで12月10日に開かれる。王族らとの晩さん会も中止となり、受賞者は居住国でメダルと賞状を受け取る。賞金1千万クローナ(約1億2千万円)の半分をパリージ氏が受け取り、残りを真鍋氏とハッセルマン氏が等分する。
◇真鍋 淑郎(まなべ・しゅくろう)1931年9月21日、愛媛県新宮村(現四国中央市)生まれ。53年東京大理学部卒。58年東大大学院博士課程修了、理学博士。同年渡米し、米海洋大気局で勤務。68年米プリンストン大客員教授兼任。97年に帰国し科学技術庁(当時)の地球フロンティア研究システム地球温暖化予測研究領域長。2005年プリンストン大上席研究員。名古屋大特別招聘(しょうへい)教授も務めた。米ベンジャミン・フランクリン・メダル、スウェーデンのクラフォード賞など受賞。米国籍。90歳。