瀬戸内寂聴さん波乱の人生 夫と娘を捨て妻子ある男性と 愛の遍歴「夏の終り」などに結実
「夏の終り」「かの子撩乱」など愛と人間の業を見詰めた小説や人々の心に寄り添う法話で知られ、文化勲章を受章した作家で僧侶の瀬戸内寂聴(せとうち・じゃくちょう)さんが9日午前6時3分、心不全のため京都市内の病院で死去した。99歳。徳島市出身。葬儀は近親者で行う。後日、東京都内でお別れの会を開く予定。先月から体調不良で入院していたという。
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瀬戸内さんは20代で夫と娘を捨て出奔。妻子ある男性との同居、年下の男性との出会いと別れ。愛の遍歴は「夏の終り」などの私小説に結実した。出家前の7年間は、作家井上光晴さんと不倫関係にあった。
作家岡本かの子を描いた「かの子撩乱」、女性運動家伊藤野枝に迫った「美は乱調にあり」などの伝記小説では、因習をはねのけ、奔放に生きた女性たちを取り上げ、常識にとらわれない、自分に正直な生き方を描いた。
真実を追い求め、出家の道を選んだ。73年に岩手県の中尊寺で得度し、寂聴を法名に。後に本名も晴美から寂聴に改めた。
法話など人前で話す機会が増え、飾らない朗らかな性格で周囲を元気づけた。人柄と生き方に引かれ、嵯峨野の寂庵には悩める老若男女が訪れた。瀬戸内さんは「過去にこだわらず、未来の取り越し苦労をせず、今を切に生きよう」と語り掛けた。一遍上人を描いた「花に問え」や西行が題材の「白道」など、仏教色の濃い小説も手掛けた。
平成の源氏物語ブームの立役者でもあり、98年に70代で現代語訳を完成。国内外へ講演に出向いた。近年も創作意欲は衰えず、07年には世阿弥を描いた「秘花」がベストセラーに。17年に最後の長編小説「いのち」を刊行後も、文芸誌2誌で連載中だった。