１１月１２日に死去した元広島監督の古葉竹識さん（享年８５）。カープ黄金期を築いた名将として野球ファンの記憶に刻まれているが、監督退任後の９９年には歌手の南一誠（６９）とのデュエット曲「浪漫世代」で歌手デビューもしていた。公私ともに親交の深かった南が、恩人でもある古葉さんとの思い出を振り返った。

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　カープをリーグ優勝４度、日本一に３度導き、全国区に押し上げた古葉さんがこの世を去って１カ月。南はまだその死を受け入れられないでいる。「毎年、年末は親しい人たちが集まって広島で食事会を開いてたんですが、今年もまた監督がいらっしゃるような気がして。私の中ではお元気な姿の記憶しかないんです」。今も南は古葉さんを「監督」と呼ぶ。最後に会ったのはコロナ前の１９年１２月。あれから２年、突然舞い込んだ訃報だった。

　南が古葉さんと初めて会ったのはカープが２年連続日本一を達成した８０年オフの祝勝イベントだった。イベント後のサイン会で長蛇の列ができる中、古葉さんは一人一人に名前を尋ね、サイン色紙に書き添えた。「ファンに対する気遣いに驚きました。野球での（選手に対する）厳しさは有名でしたが、グラウンドを離れた監督は優しさにあふれた紳士で、人を大切にされる方だと感じました」。その印象は最後まで変わることはなかった。

　南とのデュエット曲「浪漫世代」が発売されたのは９９年。２月に行われた南の歌手生活２０周年記念コンサートに古葉さんがお祝いに駆けつけ、その打ち上げの席で歌手デビューの話が持ち上がった。「監督が野球殿堂入りされたので、その記念に歌を出してはという話で盛り上がったんです。カラオケもお好きな方でしたから。ただ、『一人で歌うのはちょっと』と難色を示されたので、『じゃあ私と２人で男のロマンを歌いましょう』ということになったんです」。その後、とんとん拍子に話は進み、ＣＤデビューが決定。８月には発売記念のディナーショーを開催した。

　「男は言い訳するよりもこころに夢だけあればいい」「追い風ばかり吹かないけれど明日に向かって耐えて勝つ」（歌詞の一部）

　厳しい勝負の世界に身を置いた古葉さんの生き様を描いた曲でもあった。当時、全国に古葉さんの人柄に惹かれた人たちによる「古葉会」があり、２人は各地を行脚して歌を披露した。「どこにいっても監督のファンがたくさん集まって応援してくれました」。中国・大連にある「古葉会」にも足を運んだ。

　その後も２人の交流は続き、１９年に行われた南の歌手生活４０周年の記念コンサートでもステージに上がった古葉さんと「浪漫世代」を熱唱した。「私がデビューした時からずっとそばで応援してくれて、たくさんの人との縁もつないでいただいた。野球の世界では多くの選手を（一流選手に）引き上げましたが、芸能界では私を（ひのき舞台に）引き上げてくれたんです」。感謝の思いは尽きない。

　古葉さん亡き後、南がパーソナリティーを務めるラジオ番組には「浪漫世代」のリクエストが相次ぎ、「一人になっても歌い続けてください」というメッセージも多く届いた。「ありがたいことです。監督のことが皆さんの記憶にいつまでも残るように、ずっとこの歌を歌い続けていきたい」と誓う。

　コロナ禍でイベントやコンサートの中止が相次ぐ中、南は来年７０歳を迎える。「節目の年でもあるので記念コンサートの開催と新曲を出せればと思っているのですが、コロナが今後どうなっていくかですね」と先は見通せない。それでも、その時に備え、日々体調を整え、声帯のケアも欠かさない。歌手としての矜持を胸にコロナという逆風に立ち向かっていく姿は「浪漫世代」の歌詞と重なる。古葉さんもそんな南をきっと天国から応援しているに違いない。（デイリースポーツ・工藤直樹）

　◆南一誠（みなみ・いっせい）本名は南義信。１９５２年１０月１９日生まれ。東広島市安芸津町出身。崇徳高時代はグリークラブ部の初代メンバー。８０年４月に「広島天国」「雨の港から」でデビュー。主なヒット曲は「慕情の街」「ひろしまかくれんぼ」「それ行けカープ」「西国浪漫」など。２０１０年に元広島の前田健太（現ツインズ）らとともに「広島市民賞」を受賞し、「広島市特任大使（ひろしま文化大使）」に任命される。ＲＣＣラジオで毎週月曜、午後８時から「南一誠のゆめ語り一誠一座」を放送中。