【中村竜太郎のタイガー&ドラゴン】コロナ禍で深刻化したメンタル疾患
「急すぎる別れから一週間、とても心の整理も出来ませんし、語る言葉も見つかりません。『何故…』は、きっと誰にもわからないと思います」
5月3日に急逝した俳優・渡辺裕之さん(66歳没)の家族葬が営まれ、妻で女優の原日出子さん(62)がコメントを発表した。
自宅トレーニングルームで倒れていたのを家族が発見。縊死(いし)と公表されたが、さしたる理由はなく、その突然の出来事に家族・友人は茫然自失。スポーツ万能、精悍(せいかん)でエネルギッシュなイメージだっただけに世間は衝撃を覚えた。誰に対しても細やかな気遣いをし、多くの人に愛され、また愛妻家として知られた渡辺さんは、超がつくほど真面目な人だった。冒頭に続き、原さんはこう説明した。
「何事にもストイックで、一生懸命で、手を抜くことをしない人でした。『眠れない』と体調の変化を訴えるようになり、自律神経失調症と診断され、一時はお薬を服用していましたが、またお仕事が忙しくなって、元気を取り戻したようでもありました。しかし、少しずつじわじわと、心の病は夫を蝕(むしば)み、大きな不安から抜け出せなくなりました」
コロナ禍で深刻な社会問題として浮き彫りとなったメンタル疾患。特に、生真面目で責任感が強い人ほど悩み抜いてしまう傾向にある。対外的にはバリバリと快活に動いているように見える人でも、心の奥底に苦悩の種を蒔き、伸びた蔓(つる)に絡め取られていることもある。それは自身にしかわからないことだし、もっと言えば、自身でも気づかないうちにじわじわとそうなってしまうこともある。身近にいる家族でさえ、病状を推し量ることは難しいとされるのが、厄介である。
渡辺さんは最近元気になり、ゴルフ番組の収録を楽しみにしていたという。しかしその矢先に、衝動に落ちてしまった。人気商売は先行きの不安を感じやすいといわれるが、メンタルに関してはあらゆる職業、年代の人が病気になってもおかしくない。けして他人事ではない。だからこそ周囲とつながり、悩みを分かち合い、お互いを支え合えるようにしたい。たったひとつの命。厳しい言い方になるかもしれないが、残される人が悲しむことも忘れてはならないだろう。