【渡邉寧久の演芸沼へようこそ】RAKUGOでアメリカを笑わせる柳家東三楼

 落語をRAKUGOに変換し、たった一人でアメリカ人を笑わせている落語家がいる。

 落語界の重鎮、柳家権太楼(75)の弟子の柳家東三楼(とうざぶろう=45)。外国人アーティストビザ01(オーワン)の更新のため、先月から帰国中だ。

 「2、3年前の自分とはまったく別の人生ですね」と、本人の予想をも超える現在の立ち位置。米ニューヨークの、家賃1200ドルのアパートメントを拠点に「落語で食えています。物価は高いですけどね」と言葉に自信をみなぎらせる。

 大学や商工会、日本人会などでの落語公演やワークショップ、個人レッスン、ラジオ出演など、市場を孤軍開拓してきた。落語を世界クラスのエンタメにするため『RAKUGO Association of America』を設立した。「同業者がいない、ライバルがいないということは、ひとり占め状態」と思考はポジティブだ。

 数年前までは都内の寄席や落語会を中心に生きる、ごく普通の芸人だった。2016年、文化庁芸術祭大衆芸能部門の新人賞を受賞したことが自信になり、行動変容のきっかけに。語学学校に提案し実現した英語落語に手ごたえを感じ、落語でアメリカに打って出ることを決めた。

 1000万円近い貯えを切り崩し、1年ほどかけて全米各地の大学で無料公演を実施するなど、先々を見据える投資を実施した。と同時に、英会話の猛特訓にも取り組んだ。

 「芸を面白くするという努力は手探りで結果もあいまいですが、英語の勉強はやっただけ報われる」という取り組みの結果、ギャラの交渉やメールのやり取りもすべて英語でできるまでに。

 「40歳を過ぎてまいたタネがうまく育って、ここに来て少しずつ収穫が始まった感じですね。アメリカはアートに対するリスペクトが強く、ギャラを値切られることもない。去年から1年で、こんなに仕事量も稼ぎも伸びるとは思わなかった」と、RAKUGOの冒険は快調に進んでいる。

 「来年はニューヨーク移住5周年、落語家生活25周年。全米50州ツアーと日本ツアーを考えています。アメリカ移住の物語をまとめてネットフリックスにも売り込みたい。こんまり超えも夢じゃないでしょう!」

 規格外の芸人だ。(演芸評論家)

 ◆渡邉寧久(わたなべ・ねいきゅう)新聞記者、民放ウェブサイト芸能デスクなどを経て独立。文化庁芸術祭・芸術選奨、浅草芸能大賞などの選考委員を歴任。東京都台東区主催「江戸まちたいとう芸楽祭」(ビートたけし名誉顧問)の委員長を務める。

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