安倍晋三元首相（６７）が８日午前１１時半頃、参院選の街頭演説をしていた奈良市の近鉄大和西大寺駅前で銃撃され、搬送先の奈良県立医大病院で午後５時３分に死亡が確認された。奈良県警は殺人未遂容疑で現行犯逮捕した元海上自衛隊員の職業不詳山上徹也容疑者（４１）を殺人容疑に切り替えて捜査。県警によると、「元首相の政治信条に対する恨みではない」と供述している。県警は容疑者の自宅などを家宅捜索。動機解明を進める。

　安倍氏が演説を始めてから数分後、背後約５メートルの路上で山上容疑者が黒い物体を掲げた。「ドーン」というごう音が響き、安倍氏が振り向きかけると２度目のごう音が響いた。

　衝撃で空気が震え、白煙と火薬のにおいが立ちこめる。「きゃー！」。聴衆から悲鳴が上がったのとほぼ同時に、表情にわずかな笑みを残したままの安倍氏が崩れ落ちた。

　警護の男性ら４～５人が一斉に飛びかかる。男は抵抗することもなく押さえつけられ、あおむけで捜査員らしき男性と淡々とやりとりを交わしていた。

　目を閉じてあおむけになった安倍氏の、ワイシャツの胸の辺りが真っ赤に染まっていた。スタッフが自動体外式除細動器（ＡＥＤ）を取り付け、心肺蘇生措置が取られた。

　救急隊は午前１１時４０分頃到着。身動き一つしない安倍氏に「総理頑張れ。総理頑張れ」と、多くの人の祈るような声が送られた。安倍氏はドクターヘリで病院に運ばれ、妻の昭恵さんも都内から駆けつけたが、午後５時３分に死亡した。

　病院によれば、安倍氏は心肺停止の状態で搬送された。処置は１００単位以上の輸血が実施された。輸血の１単位は２００ミリリットルの献血から作られる。首のやや右側に５センチほど離れて銃創が２カ所あり、大血管と心臓の心室にも大きな傷があった。左肩前部には弾丸が体内から抜けたような傷があった。

　治療に当たった福島英賢医師は「いろいろなところから出血し、完全に止血できなかった。残念ながら心拍は再開しなかった」と説明。吉川公彦病院長は「病院としてはできるだけのことを尽くした」と述べた。

　安倍氏は１０日投開票の参院選で、自民党候補者を支援するため全国各地を回っていた。

　党関係者らによると、８日は長野県に入る予定だったが７日に急きょ取りやめ、追い上げられていると伝えられていた奈良選挙区の現職候補の応援演説に訪れていた。党奈良県連によると、応援演説は７日午後に急きょ決定。ＳＮＳなどで一般向けにも発信していた。当時、奈良県警と警視庁の警察官が警護や警備に当たっていた。

　山上容疑者は「ホームページで演説日程を把握した」という趣旨の供述をしているという。希代の政治家の生死を分けたのは、わずか１日前の予定変更だった。