【渡邉寧久の演芸沼へようこそ】新真打の一蔵、小燕枝、扇橋が襲名披露興行で規格外「大初日」
一切が規格外、レアな披露目が始まった。
9月21日、東京・上野鈴本演芸場。新真打昇進襲名披露興行の「大初日」に、落語協会(柳亭市馬会長)所属の春風亭一蔵(41)、柳亭市弥改め八代目柳亭小燕枝(38)、入船亭小辰改め十代目入船亭扇橋(38)は、それぞれの思いを胸に高座に上がった。
従来であれば、口上に並べるのはトリを務める新真打だけ。落語をしゃべるのも、トリを務める日だけだった。
ところが今回、「3人で口上に上がりたいと我々が提案しました」(一蔵)。鈴本の鈴木敦席亭(39)が快諾した結果、通常は5、6人が並ぶ口上に、今回は3人とそれぞれの師匠、協会幹部が窮屈そうにずらり9名。「圧巻の口上」(小燕枝)に、満員札止めの観客(285席)は沸きに沸いた(2日目以降の口上は、通常の形に戻る)。
新真打全員が毎日高座に上がるのも、同協会としては初の試みだ。仲入りの前と後に、真打の交互出演枠が設けられた。
「口上前に(真打として)高座に上がるというのは初で、師匠(=市馬)にも『本当に不思議だな』って。これだけお客さんが入って、私はいい景色を見せていただいた」と、小燕枝はいつも通りのニコニコ顔。「口上のときに体が熱くなっていくのを感じたので、熱を冷まさないように」と静かに意気込むのは扇橋。一蔵が「ラッキーだなと思いますね。この3人で、人生のピークをきょう迎えた」としゃれで笑わせると、すかさず他の2人が「違うわ」と突っ込み、間のよさを見せつけた。
小燕枝「のめる」、扇橋「いかけ屋」、一蔵「阿武松」で「大初日」を決めた3人。鈴本、新宿末廣亭、浅草演芸ホール、池袋演芸場、国立演芸場へと10日ずつ、演者と客の特別で幸せな披露目は続く。(演芸評論家)
◆渡邉寧久(わたなべ・ねいきゅう)新聞記者、民放ウェブサイト芸能デスクなどを経て独立。文化庁芸術祭・芸術選奨、浅草芸能大賞などの選考委員を歴任。東京都台東区主催「江戸まちたいとう芸楽祭」(ビートたけし名誉顧問)の委員長を務める。